・・・媼しずかに顧みて、 やれ、虎狼より漏るが恐しや。 と呟きぬ。雨は柿の実の落つるがごとく、天井なき屋根を漏るなりけり。狼うなだれて去れり、となり。 世の中、米は高価にて、お犬も人の恐れざりしか。明治四十三年九月・十一月・・・ 泉鏡花 「遠野の奇聞」
・・・憖いに早まって虎狼のような日傭兵の手に掛ろうより、其方が好い。もう好加減に通りそうなもの、何を愚頭々々しているのかと、一刻千秋の思い。死骸の臭気は些も薄らいだではないけれど、それすら忘れていた位。 不意に橋の上に味方の騎兵が顕れた。藍色・・・ 著:ガールシンフセヴォロド・ミハイロヴィチ 訳:二葉亭四迷 「四日間」
・・・(或曰、くまは韓語、或曰、くまは暈ただ狼という文字は悪きかたにのみ用いらるるならいにて、豺狼、虎狼、狼声、狼毒、狼狠、狼顧、中山狼、狼、狼貪、狼竄、狼藉、狼戻、狼狽、狼疾、狼煙など、めでたきは一つもなき唐山のためし、いとおかし。いわゆる御狗・・・ 幸田露伴 「知々夫紀行」
・・・ 蟹が日清戦争で遼東半島というデカイ握り飯を貰ったら、熊虎狼が出しゃばって来て日露戦争で握り飯を蟹からとりあげ小さい柿の種をおしつけた。百姓姿の蟹は仕かたがないから、その柿の種にせっせと肥しをかけやっと柿の実をみのらしたら、その出来がい・・・ 宮本百合子 「「モダン猿蟹合戦」」
出典:青空文庫