・・・その時僕は、あの高洞山のまっ黒な蛇紋岩に、一つかみの雲を叩きつけて行ったんだ。そしてその日の晩方にはもう僕は海の上にいたんだ。海と云ったって見えはしない。もう僕はゆっくり歩いていたからね。霧が一杯にかかってその中で波がドンブラゴッコ、ドンブ・・・ 宮沢賢治 「風野又三郎」
・・・ ガタンコガタンコ、シュウフッフッ、 凍えた砂利に 湯げを吐き、 火花を闇に まきながら、 蛇紋岩の 崖に来て、 やっと東が 燃えだした。 ガタンコガタンコ、シュウフッフッ、 鳥がなきだし 木は光り、・・・ 宮沢賢治 「シグナルとシグナレス」
種山ヶ原というのは北上山地のまん中の高原で、青黒いつるつるの蛇紋岩や、硬い橄欖岩からできています。 高原のへりから、四方に出たいくつかの谷の底には、ほんの五、六軒ずつの部落があります。 春になると、北上の河谷のあちこちから、沢山・・・ 宮沢賢治 「種山ヶ原」
・・・ヒームカさんも蛇紋石のきものがずぶぬれだろう。」「兄さん。ヒームカさんはほんとうに美しいね。兄さん。この前ね、僕、ここからかたくりの花を投げてあげたんだよ。ヒームカさんのおっかさんへは白いこぶしの花をあげたんだよ。そしたら西風がね、だま・・・ 宮沢賢治 「楢ノ木大学士の野宿」
出典:青空文庫