・・・じっさいあのまっしろなプクプクした、玉髄のような、玉あられのような、又蛋白石を刻んでこさえた葡萄の置物のような雲の峯は、誰の目にも立派に見えますが、蛙どもには殊にそれが見事なのです。眺めても眺めても厭きないのです。そのわけは、雲のみねという・・・ 宮沢賢治 「蛙のゴム靴」
・・・玻璃蛋白石の脈だ。〔ここをごらんなさい。岩のさけ目に白いものがつまっているでしょう。これは温泉から沈澱したのです。石英です。岩のさけ目を白いものが埋めているでしょう。いい標本です。〕みんなが囲む。水の中だ。「取らえなぃがべが。」「い・・・ 宮沢賢治 「台川」
楢ノ木大学士は宝石学の専門だ。ある晩大学士の小さな家へ、「貝の火兄弟商会」の、赤鼻の支配人がやって来た。「先生、ごく上等の蛋白石の注文があるのですがどうでしょう、お探しをねがえませんでしょうか。もっともごくご・・・ 宮沢賢治 「楢ノ木大学士の野宿」
・・・「はい、また、大きな蛋白石の盤のようでございます」「うん。そうだね。僕はあんな大きな蛋白石があるよ。けれどもあんなに光りはしないよ。僕はこんど、もっといいのをさがしに行くんだ。お前もいっしょに行かないか」 大臣の子はすこしもじも・・・ 宮沢賢治 「虹の絵具皿」
・・・精女 そんなにおっしゃらないで下さいませ、そんなにおっしゃられるほどのものじゃあございませんですから――ペーン まっしろな銀で作った白孔雀の様な――夜光球や蛋白石でかざった置物の様な――私はそう思って居るのだよ。 お前の御主のダ・・・ 宮本百合子 「葦笛(一幕)」
・・・竹やぶの細い葉を一枚一枚キラキラ強い金色にひらめかせながら西の山かげに太陽が沈みかけると、軽い蛋白石色の東空に、白いほんのりした夕月がうかみ出す、本当に空にかかる軽舸のように。しめりかけの芝草がうっとりする香を放つ。野生の野菊の純白な花、紫・・・ 宮本百合子 「田舎風なヒューモレスク」
・・・けれ共そうある事を希って居るのではない、私は今の此の力に満ちた蛋白石の様な心の輝きが失せて「死」の力も「生の力」の偉大さをも感じないほど疲れた鈍い、哀れな感情になる事を思うのは、いかほど辛い事だろう。 どれほど、白髪が、私の頭を渦巻こう・・・ 宮本百合子 「悲しめる心」
・・・ 天鵝絨のように生えた青草の上に、蛋白石の台を置いて、腰をかけた、一人の乙女を囲んで、薔薇や鬱金香の花が楽しそうにもたれ合い、小ざかしげな鹿や、鳩や金糸雀が、静かに待っています。 そして、台の左右には、まるで掌に乗れそうな体のお爺さ・・・ 宮本百合子 「地は饒なり」
出典:青空文庫