・・・今では広大な建築が、たくさんの床と壁とで蜂の巣のように仕切られ、人々はめいめいの室のただ一つの窓から地平線のわずかな一部を見張っている。たださえ狭い眼界は度の強い望遠鏡でさらにせばめられる。これらの人のために、この大建築から離れた所に、小さ・・・ 寺田寅彦 「丸善と三越」
・・・けれどもこの時は、風がまるで熊のように吼え、まわりの電信柱どもは、山いっぱいの蜂の巣をいっぺんにこわしでもしたように、ぐゎんぐゎんとうなっていましたので、せっかくのその声も、半分ばかりしかシグナレスに届きませんでした。「ね、僕はもうあな・・・ 宮沢賢治 「シグナルとシグナレス」
・・・もうみんな、がやがやがやがや言って、なにがなんだか、まるで蜂の巣をつっついたようで、わけがわからなくなりました。そこでやまねこが叫びました。「やかましい。ここをなんとこころえる。しずまれ、しずまれ。」 別当がむちをひゅうぱちっとなら・・・ 宮沢賢治 「どんぐりと山猫」
・・・の中は夕方近くに来る某博士の診断の想像、立て閉めた西洋間の中の様子、手伝に来て居る者にお菓子をやり医者の車夫に心づけを仕なければ成らない事、五時までに食事を出さなければならない事、………… まるで蜂の巣の様に細かく分けられた頭は皆その小・・・ 宮本百合子 「二月七日」
出典:青空文庫