・・・ 庚申山は閲す幾春秋 賢妻生きて灑ぐ熱心血 名父死して留む枯髑髏 早く猩奴名姓を冒すを知らば 応に犬子仇讐を拝する無かるべし 宝珠是れ長く埋没すべけん 夜々精光斗牛を射る 雛衣満袖啼痕血痕に和す 冥途敢て忘れん阿郎の恩を 宝・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・ とはにかんだ顔をして言って、すこし血痕のついているワイシャツとカラアをかかえ込み、「あら、こちらで致しますわ。」 と女中に言われて、「いや、馴れているんです。うまいものです。」 と極めて自然に断る。 血痕はなかなか・・・ 太宰治 「犯人」
・・・といって新聞紙で蔽った血痕を指して云った、自分の声が恐ろしく邪慳に自分の耳に響いた。真鍋さんはしきりに例の口調で指図して湯たんぽを取りよせたり氷袋をよこさせたりした、そして助手を一人よこしてつけてくれた。白い着物をつけた助手は自分の脚の方に・・・ 寺田寅彦 「病中記」
・・・ 彼女の肩の辺から、枕の方へかけて、未だ彼女がいくらか、物を食べられる時に嘔吐したらしい汚物が、黒い血痕と共にグチャグチャに散ばっていた。髪毛がそれで固められていた。それに彼女のがねばりついていた。そして、頭部の方からは酸敗した悪臭を放・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
出典:青空文庫