・・・ヒームカさんは血統はいいのですよ。火から生れたのですよ。立派なカンランガンですよ。」ラクシャンの第一子は尚更怒って立派な金粉のどなりをまるで火のようにあげた。「知ってるよ。ヒームカはカンランガンさ。火から生れたさ。それは・・・ 宮沢賢治 「楢ノ木大学士の野宿」
・・・ 優良馬の媾配であるならば血統の記録を互に示し合って、それでわかると思う。人間の男女の結婚は、共同的な生活の建設であり、生活は複雑をきわめるものであって、永い歳月にわたって互が互の真実な伴侶であるためには、人間としての結びつきが深い土台・・・ 宮本百合子 「結婚論の性格」
・・・した女の人がどんな生涯を送ったかと申しますれば、幸にしてそこで無事に子供をもって一生終ればよかったけれども、なかには自分の実家の兄弟と夫の家族とがまた再び戦さを起した時には、その女の人達は自分の家族の血統のものだから、生んだ子を捨てて実家の・・・ 宮本百合子 「幸福の建設」
・・・孝子夫人が文学について趣味の深いことは、血統のおくりものと云えるのかもしれない。 その上に、孝子夫人の生れ合わせが、生活の間に消されてしまわない熱さで人生を求めていたとすれば、文学への好みも、内面にひとかたならぬ、きずなをもっていたわけ・・・ 宮本百合子 「白藤」
・・・れつつも、熱心にギリシア、ローマ等の古典文学を跋渉し、章句を引用し、彼以前には、全く空白に等しかった先史の分野に、一夫一婦制以前の社会が単に無規律性交の行われていた原始状態であったのではなくて、その「血統が母系において――母権によって」辿ら・・・ 宮本百合子 「先駆的な古典として」
・・・此程、単純な平面に区切りをつけるに苦心を要するのを考えると母上が、まるでプランを理解されない血統を牽いたのか。可笑しい。 宮本百合子 「小さき家の生活」
・・・自分の番になるのを待って居るものや、もう上ったものは炉の廻りに集って、茶をのみのみ世間話をして居る。血統も分らない――又どんな病気を持ってこうして居るかもしれない人達を、自家の湯へ入れると云う事は随分と危険な事だ。外で行水をつかえなくなって・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・「ああ王族は血統純美」というような蕪雑な王党的自己陶酔。一層我々に納得されにくい独裁専制政治と宗教についての暴圧的政治論等々、読者は決してすらりとこの一篇の小説を読み終せることは許されない。種々の抵抗にぶつかり、小道へまで引きまわされ、脂の・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・から「自分の血統に傾ける心」を持って「自分の一族」の経歴を溯っている。作者は、自身の蹉跌や敗北の責任を「自分の意志を作り上げこそしたと思われる古い昔の父たち母たちに押しつけなすりつけようという」思いを自身軽蔑しつつそれに引かされている自分を・・・ 宮本百合子 「ヒューマニズムへの道」
・・・そしてその体裁をして荒涼なるジェネアロジックの方向を取らしめたのは、あるいはかのゾラにルゴン・マカアルの血統を追尋させた自然科学の余勢でもあろうか。 しかるにわたくしには初めより自己が文士である、芸術家であるという覚悟はなかった。また哲・・・ 森鴎外 「なかじきり」
出典:青空文庫