・・・実際無類絶好の奇宝であり、そして一見した者と一見もせぬ者とに論なく、衆口嘖しゅうこうさくさくとしていい伝え聞伝えて羨涎を垂れるところのものであった。 ここに呉門の周丹泉という人があった。心慧思霊の非常の英物で、美術骨董にかけては先ず天才・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・ と大声で言って衆口を閉じさせ、ひとまず落ちつく事にいたしましたが、さてその後、シーボルトという人が日本にまいりまして、或る偶然の機会にれいの一件がのそりのそり歩いているのを見つけて腰を抜かした。何千年も前に、既に地球上から影を消したものと・・・ 太宰治 「黄村先生言行録」
・・・しかれどもその芭蕉を尊崇するに至りては衆口一斉に出づるがごとく、檀林等流派を異にする者もなお芭蕉を排斥せず、かえって芭蕉の句を取りて自家俳句集中に加うるを見る。ここにおいてか芭蕉は無比無類の俳人として認められ、また一人のこれに匹敵する者ある・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・ 入学試験の新考査法についてこの春様々の論調があったとき、衆口おのずから一致したのは、小学教員のおかれている経済的誘惑の点であった。 謹直な教師たちに屈辱感を与えたにちがいないその問題は、しかし、愈物的条件の切迫した来春どんな形で再・・・ 宮本百合子 「女性週評」
出典:青空文庫