・・・自律の厳粛性の弱くなったきらいがなく意志の自律性を強靭に固守する点で形式的主観的でありながら、人間行為の客観的妥当性を強調して、主観的制約を脱せしめようと努め、また学的には充分な生の芸術的感覚の背景が行間に揺曳して、油気のない道学者の感がな・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・多少ノ悲痛ト、決断、カノ小論ノ行間ヲ洗イ流レテ清潔ニ存ジマシタ。文壇、コノ四、五年ナカッタコトダ。ヨキ文章ユエ、若キ真実ノ読者、スナワチ立チテ、君ガタメ、マコト乾杯、痛イッ! ト飛ビアガルホドノアツキ握手。 石坂氏ハダメナ作家デアル。葛・・・ 太宰治 「創生記」
・・・物語にも、なんにもなっていないが、長兄の誠実と愛情だけは、さすがに行間に滲み出ている。 ――その顔は、ラプンツェルの顔ではなかった。いや、やっぱりラプンツェルの顔である。しかしながら、病気以前のラプンツェルの、うぶ毛の多い、野薔薇のよう・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・書かれている要旨は進歩に目標をおいたものであり、ラディカルでさえあるものなのに、その文章の行間を貫く気魄において、何かが欠けていてものたりない。そういうことをしばしばきく。かえって、抑圧がひどかったとき、岩間にほとばしる清水のように暗示され・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・徳川の鎖国の方針が七郎兵衛の運命を幾変転させたばかりでなく、今日の日本の動きにかかわり来っていることも、読者はおのずから行間に会得するだろう。 高木氏の歴史小説への態度には、一つの歩み出した積極なものがあると思う。そして、その積極なもの・・・ 宮本百合子 「今日の文学の諸相」
・・・この作品が道具立てとしてはさまざまの社会相の面にふれ、アクつよきものの諸典型を紹介しようと試みつつ、行間から立ちのぼって最後に一貫した印象として読者にのこされるものは、ある動的なもの、強靭で、肺活量の多いものを求めている作者の主観的翹望であ・・・ 宮本百合子 「十月の文芸時評」
・・・特に、最後の死の床で尼さんが、尼になんかなってはいけない、と唸くように告げるあたりの描写では、作者オオドゥウが修道院や尼の生活に感じている抗議が行間から迫って感じられるのである。オオドゥウでもその範囲であって、多くの若い女性の少女期が、親の・・・ 宮本百合子 「若き精神の成長を描く文学」
出典:青空文庫