・・・実は衒気五分市気三分の覇気満々たる男で、風流気は僅に二分ほどしかなかった。生来の虚飾家、エラがり屋で百姓よりも町人よりも武家格式の長袖を志ざし、伊藤八兵衛のお庇で水府の士族の株を買って得意になって武家を気取っていた。が、幕府が瓦解し時勢が一・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・が、同時に政治家型の辺幅や衒気や倨傲やニコポンは薬にしたくもなかった。君子とすると覇気があり過ぎた。豪傑とすると神経過敏であった。実際家とするには理想が勝ち過ぎていた。道学先生とするには世間が解り過ぎていた。ツマリ二葉亭の風格は小説家とも政・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・だし、デッサン不正確なり、甘し、ひとり合点なり、文章粗雑、きめ荒し、生活無し、不潔なり、不遜なり、教養なし、思想不鮮明なり、俗の野心つよし、にせものなり、誇張多し、精神軽佻浮薄なり、自己陶酔に過ぎず、衒気、おっちょこちょい、気障なり、ほら吹・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・どうも、自分の文章を自分で引用するというのは、グロテスクなもので、また、その自分の文章たるや、こうして書き写してみると、いかにも青臭く衒気満々のもののような気がして来て、全く、たまらないのであるが、そこがれいの鉄面皮だ、洒唖々々然と書きすす・・・ 太宰治 「鉄面皮」
・・・あの時代の現実は、青鞜社の時代で新しい歴史の頁をひらこうとした勇敢な若い婦人たちは、衒気を自覚しないで行動した頃であった。それにしろ、何か当時の漱石の文体が語っているようなある趣味で藤尾その他は描かれている部分が少くないように思える。最も面・・・ 宮本百合子 「歴史の落穂」
出典:青空文庫