上 政府が官選文芸委員の名を発表するの日は近きにありと伝えられている。何人が進んでその嘱に応ずるかは余の知る限りでない。余はただ文壇のために一言して諸君子の一考を煩わしたいと思うだけである。 政府は・・・ 夏目漱石 「文芸委員は何をするか」
・・・好悪は理窟にはならんのだから、いやとか好きとか云うならそれまでであるが、根拠のない好悪を発表するのを恥じて、理窟もつかぬところに、いたずらな理窟をつけて、弁解するのは、消化がわるいから僕は蛸が嫌だというような口上で、もし好物であったなら、い・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・こちらにあるのが Rose で Robert を代表するのです。下の方に忍冬が描いてありましょう。忍冬は Honeysuckle だから Henry に当るのです。左りの上に塊っているのが Geranium でこれは G……」と云ったぎり黙・・・ 夏目漱石 「倫敦塔」
・・・今出版の機を利用して是等の諸君に向って一言感謝の意を表する。 此書は趣向もなく、構造もなく、尾頭の心元なき海鼠の様な文章であるから、たとい此一巻で消えてなくなった所で一向差し支えはない。又実際消えてなくなるかも知れん。然し将来忙中に閑を・・・ 夏目漱石 「『吾輩は猫である』上篇自序」
・・・私はかかる意味において、デカルトの問題と方法とに同意を表するものである。哲学に入るものに、彼の『省察録』の熟読を勧めたい。しかし私は彼は遂にその目的と方法に徹底せなかったと考えるものである。彼はアリストテレス的論理を脱しなかった。実在を何処・・・ 西田幾多郎 「デカルト哲学について」
・・・内に親愛の至情なきも外面に尊敬の礼を表することは易きが故に、舅姑に対して朝夕の見舞を闕く可らずと教うれば、教の如く見舞うことも易し。勤む可き業を怠る可らずと言えば、勤ることも易し。嫁の役目と思えば勉強すべきなれども、其教訓いよ/\厳重にして・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・されば位階勲章は、官吏が政府の職を勤むるの労に酬いるに非ずして、ただ普通なる日本人の資格をもって、政府の官職をも勤むるほどの才徳を備え、日本国人の中にて抜群の人物なりとて、その人物を表するの意ならん。官吏の内にても、一等官の如きはもっとも易・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・之を煩わすに似たれども、其相談は老人を疏外せざるの実を表するものにして、却て意を慰むるに足る可し。曾て或る洋学者が妻を娶り、其妻も少し許り英語を解して夫婦睦じく家に居り、一人の老母あれども何事も相談せざるのみか知らせもせずに、夫婦の専断に任・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
○昔から名高い恋はいくらもあるがわれは就中八百屋お七の恋に同情を表するのだ。お七の心の中を察すると実にいじらしくていじらしくてたまらん処がある。やさしい可愛らしい彼女の胸の中には天地をもとろかすような情火が常に炎々として燃えて居る。その・・・ 正岡子規 「恋」
・・・しかしこの記者の目的は美人に非ず、酒に非ず、談話に非ず、ただ一意大食にある事は甚だ余の賛成を表する所である。 この紀行が『二六新報』に出た時には三種の紀行が同時に同新報の上に載せられた。その内で世間の評判を聞くと血達磨の九州旅行が最も受・・・ 正岡子規 「徒歩旅行を読む」
出典:青空文庫