・・・ シェクスピアの描いた女性のなかには、堂々たる婦人裁判官ポーシャばかりでなく、おそろしいマクベス夫人ばかりでなく、なかなかぬけめない、機略にとんだ女がいくたりもある。しかし、それは大体、おかみさん、または娘という環境で、デスデモーナのよ・・・ 宮本百合子 「デスデモーナのハンカチーフ」
・・・トルストイが、あのように力をこめて、無実の罪を主張して泣き叫ぶカチューシャにシベリア流刑を宣告する裁判官の、無情な非人間さを描破したのは、なぜだったろう。法律は、権力者によって自分に都合のいいように使われるが、真実の罪は、罪ありとしてさばか・・・ 宮本百合子 「動物愛護デー」
・・・ 男はこんな事を云った。彼の女の口元はキュッとしまった。そして、「私はあんたのもんじゃあ始っからありません」 裁判官の様に重くひやっこく女の声は云った。「御免なさい」 男は小さなふるえた声で云って原稿を机の上から取って読・・・ 宮本百合子 「芽生」
出典:青空文庫