・・・あるいは、お七は、裁判所で、裁判官より、言い遁れる言いようを教えてもろうたけれど、それには頓着せず、恋のために火をつけたと真直に白状してしもうたから、裁判官も仕方なしに放火罪に問うた、とも伝えて居る。あるいは想像の話かもしれぬが想像でも善く・・・ 正岡子規 「恋」
・・・どうかこれからわたしの裁判所の、名誉判事になってください。これからも、葉書が行ったら、どうか来てくださいませんか。そのたびにお礼はいたします。」「承知しました。お礼なんかいりませんよ。」「いいえ、お礼はどうかとってください。わたしの・・・ 宮沢賢治 「どんぐりと山猫」
・・・かつて保護観察所長をしていた思想検事の長谷川劉が、現在最高裁判所のメムバーであって、さきごろ、柔道家であり、漫談家、作家である石黒敬七、富田常雄などと会談して、ペン・ワン・クラブというものをつくることを提案している。名目は、腕力のあるペン・・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十一巻)」
・・・ 参議院の法務委員会と裁判所との間に、浦和充子の事件について、見解の相異があり、法務委員会の権限について論議されている。こういう問題も、わたしたちは、人民の基本的人権の擁護とブルジョア的な法律適用による裁判が果して公正なものであるかどう・・・ 宮本百合子 「「委員会」のうつりかわり」
・・・的でなく裁判をしようということで、また被告の人権を重んじようとする、平沢の事件なんかで皆が非常に困った立場になったというようなことから、へんてこりんな基本的人権の尊重のしかたで、この浦和充子の事件でも裁判所は被告の人権を重んずることを社会問・・・ 宮本百合子 「浦和充子の事件に関して」
先だっての新聞は元新興キネマの女優であった志賀暁子が嬰児遺棄致死の事件で、公判に附せられ、検事は実刑二年を求刑した記事で賑わいました。出廷する暁子として、写真も大きく載せられ、裁判所は此一人の女優の生涯に起った悲しい出来事・・・ 宮本百合子 「「女の一生」と志賀暁子の場合」
・・・ こういう特色をもった十九世紀初頭のライン州、トリエルの市にハインリッヒ・マルクスという上告裁判所付弁護士が住んでいた。そこに、一八一八年五月五日、一人の骨組のしっかりした男の子が産れ、カールと名付けられた。 マルクス家はユダヤ系で・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・「先ず本当だと云う詞からして考えて掛からなくてはならないね。裁判所で証拠立てをして拵えた判決文を事実だと云って、それを本当だとするのが、普通の意味の本当だろう。ところが、そう云う意味の事実と云うものは存在しない。事実だと云っても、人間の写象・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・一人は裁判所長の戸川という胡麻塩頭の男である。一人は富田という市病院長で、東京大学を卒業してから、この土地へ来て洋行の費用を貯えているのである。費用も大概出来たので、近いうちに北川という若い医学士に跡を譲って、出発すると云っている。富田院長・・・ 森鴎外 「独身」
・・・おなじ宿に木村篤迚、今新潟始審裁判所の判事勤むる人あり。臼井六郎が事を詳に知れりとて物語す。面白きふし一ツ二ツかきつくべし。当時秋月には少壮者の結べる隊ありて、勤王党と称し、久留米などの応援を頼みて、福岡より洋式の隊来るを、境にて拒み、遂に・・・ 森鴎外 「みちの記」
出典:青空文庫