・・・こうした悲情な物理力に対して、また狂暴なる野蛮力に対して、互に戦うことに於て、いかなる正義が得られ、いかなる真理の裁断が下され得るかということであります。 正義のために殉じ、真理のために、一身を捧ぐることは、もとより、人類の向上にとって・・・ 小川未明 「男の子を見るたびに「戦争」について考えます」
・・・ 都会の中心に生活している人と、斯様寂しい、わびしい生活をつゞけている人と、どちらが幸福であるかということは容易に裁断しがたい。 青く、空の冴えた日の朝である。私は、山に入って、琵琶滝と澗満の滝を見に行こうと出かけた。足許の草花は既・・・ 小川未明 「渋温泉の秋」
・・・総ては時の裁断に待つのみだ。たゞ人間の理想も幸福もみな刹那的なもので、軈て最後は絶滅すると云う、永久に変ることのない、亡びるものゝ悩みがある。昔から虚無の思想に到達したものは歓喜を見ない。ニヒリストの姿は寂しい。 また別に「いくら働いて・・・ 小川未明 「波の如く去来す」
・・・大人はどんな苦しみをしても、その子供には不足を感ぜしめないようにし、国家が其の子供を養って行き、善と美とに対して、子供自身の裁断をまつように自由に教育することは、何と云ってもそれは好い教育である。・・・ 小川未明 「人間性の深奥に立って」
・・・民事訴訟の紛紜、及び余り重大では無い、武士と武士との間に起ったので無い刑事の裁断の権能をもそれに持たせた。公辺からの租税夫役等の賦課其他に対する接衝等をもそれに委ねたのであった。実際に是の如き公私の中間者の発生は、栄え行こうとする大きな活気・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・白石はシロオテの裁断について将軍へ意見を言上した。このたびの異人は万里のそとから来た外国人であるし、また、この者と同時に唐へ赴いたものもある由なれば、唐でも裁断をすることであろうし、わが国の裁断をも慎重にしなければならぬ、と言って三つの策を・・・ 太宰治 「地球図」
・・・ものごとを未解決のままで神の裁断にまかせることを嫌う。なにもかも自分で割り切ってしまいたい。神は何ひとつ私に手伝わなかった。私は霊感を信じない。知性の職人。懐疑の名人。わざと下手くそに書いてみたりわざと面白くなく書いてみたり、神を恐れぬよる・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・今や地殻までが裁判長の神聖な裁断に服するのだ。」 二番目の判事が云いました。「実にペンネンネンネンネン・ネネム裁判長は超怪である。私はニイチャの哲学が恐らくは裁判長から暗示を受けているものであることを主張する。」 みんなが一度に・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
・・・ 春山行夫という批評家は、その人としてのいい方で、横光の自我は現実を裁断する力がないから未完成である、といっている。これは普通の言葉でいうと、横光の生活的作家的生きかたは、要するに頭の中だけで問題をこねているから、まだであるということに・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・彼女はさっきまで子供外套の裁断をしていたのだ。産科医の注意で、彼女は一日のうちに幾度かそうやって、かけていれば立って歩く、たっていればかける、或は体を長くのばして横わる。いろいろ姿勢をかえる必要があるのであった。それが書き物机にもなるし食卓・・・ 宮本百合子 「街」
出典:青空文庫