・・・ 世間の人気の動きというものこそ時代の甘くて辛い裏表を瞬間のうちに表現するのだから、女を人前でいためつけるという一つのあらわれも、決してかるがるしく見すごさせる社会現象ではない。ましてや、女が昨今のような社会の生産のために働いているとき・・・ 宮本百合子 「私の感想」
・・・ このとき裏門を押し破ってはいった高見権右衛門は十文字槍をふるって、阿部の家来どもをつきまくって座敷に来た。千場作兵衛も続いて籠み入った。 裏表二手のものどもが入り違えて、おめき叫んで衝いて来る。障子襖は取り払ってあっても、三十畳に・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・るより、酌でもしてくれれば、嫁入支度位は直ぐ出来るようにして遣ると、兄が勧めたので、暫く博多に行っていたが、そこへ来る客というのが、皆マドロスばかりで、ひどく乱暴なので、恐れて逃げて帰ったのだそうだ。裏表のない、主人のためを思って働く、珍ら・・・ 森鴎外 「独身」
出典:青空文庫