・・・これまでは、刺繍だの金銀泥が好きなだけつかえて、染料の不足もなかったから、玄人とすればいろいろ技法を補い誇張する手段があった。ところが、統制になって、そういう補助の手段が減って来たために、専門家は愈々純粋の染色技術で行かなければならなくなっ・・・ 宮本百合子 「生活のなかにある美について」
・・・ そのためこの四五年と云うもの只金ばかりに気を取られて居る町の地主等は、年貢米の一斤一合の事までひどくせめたてて、元、半俵位の事ならそうひどい事も云わず来年の分に廻しその補いに、野菜や麦を持って来させて居た自分等の心をあやしんでいるらし・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・あそこなら薯も育ちそうだという庭の思い出されるうちは、米が不足すればジャガイモをつくるより先に何かほかのものを買って補いをつけそうである。 全国的な米の不足に対して、都会も消費者としての側からばかりでなく、せめては馬鈴薯をつくるなりして・・・ 宮本百合子 「昔を今に」
出典:青空文庫