・・・ 蛾の襲撃で困った時には宅の猫を連れて来ると、すぐに始末が着く。二匹居るうちの黄色い方の痩せっぽちの男猫が、他には何の能もない代りに蛾をつかまえることだけに妙を得ている。飛上がったと思うと、もう一遍にはたき落す。それから散々玩具にした揚・・・ 寺田寅彦 「烏瓜の花と蛾」
・・・ 蛾の襲撃で困った時には宅の猫を連れて来ると、すぐに始末が着く。二匹いるうちの黄色いほうのやせっぽちの男猫が、他にはなんの能もない代わりに蛾をつかまえることだけに妙を得ている。飛び上がったと思うと、もう一ぺんにはたき落とす。それからさん・・・ 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
・・・ 今度のノーベル・プライズのために不意打ちをくらった世間が例のように無遠慮に無作法にあのボーアの静かな別墅を襲撃して、カメラを向けたり、書斎の敷物をマグネシウムの灰で汚したり、美しい芝生を踏み暴したりして、たとえ一時なりともこの有為な頭・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・敵の飛行機から毒瓦斯の襲撃を受けたときの防禦演習をしているのだという。サイレンが鳴ると思ったら眼が覚めた。汽車はもう仙台へ着いていた。 帰宅してみると猫が片頬に饅頭大な腫物をこしらえてすこぶる滑稽な顔をして出迎えた。夏中ぽつりぽつり咲い・・・ 寺田寅彦 「札幌まで」
・・・また四月英国の閉塞隊がベルギー海岸のドイツ潜水艇の根拠地を襲撃した場合にも、味方の行動を掩蔽するために煤煙の障屏を使用しようとしたのが肝心の時に風が変って非常の違算を来たしたという事である。これらの場合に充分な気象観測の材料が備わっていて優・・・ 寺田寅彦 「戦争と気象学」
・・・ すこし慣れて来ると三毛のほうが攻勢をとって襲撃を始めた。いきなり飛びついて首を羽がいじめにして頭でも足でもかみつきあと足で引っかくのである。ほんとうに鷹と小すずめとのような争いであった。ちびは閉口して逃げ出すかと思うとなかなかそうでな・・・ 寺田寅彦 「ねずみと猫」
・・・我輩がここに下宿したてにはしばしばペンの襲撃を蒙って恐縮したのである。やむをえずこの旨を神さんに届け出ると、可愛想にペンは大変御小言を頂戴した。御客様にそんなぶしつけな方があるものか以後はたしなむが善かろうときめつけられた。それから従順なる・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・私は同時に頭をやられたが、然し今度は私の襲撃が成功した。相手は鼻血をタラタラ垂らしてそこへうずくまってしまった。 私は洗ったように汗まみれになった。そして息切れがした。けれども事件がここまで進展して来た以上、後の二人の来ない中に女を抱い・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
・・・野蛮な警察のスパイどもは紳士をよそおいステッキをついて我らを襲撃するからである。革命的な活動をする若い女の口へステッキをつっこんで、負傷させ、その娘が叫ぶ声をこの耳できき、その血を見たからである。それを私は私の目で、警察の留置場で見た。留置・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・小説ん中に富農の襲撃がある。けんど、集団農場建設をすける意味で、政府から何の助力も与えられていねえネ。アグニェフを半殺しにした。それっきりだ。民警さえいねえ。訊問もなければ、宣伝もねえ。俺等んとこじゃどうだったね? このコンムーナへ徒党が押・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
出典:青空文庫