・・・とんとんと裏階子を駆下りるほど、要害に馴れていませんから、うろうろ気味で下りて来ると、はじめて、あなた、たった一人。」「だれか、人が。」「それが、あなた、こっちが極りの悪いほど、雪のように白い、後姿でもって、さっきのおいらんを、丸剥・・・ 泉鏡花 「開扉一妖帖」
・・・しかも巌がくれの裏に、どうどうと落ちたぎる水の音の凄じく響くのは、大樋を伏せて二重に城の用水を引いた、敵に対する要害で、地下を城の内濠に灌ぐと聞く、戦国の余残だそうである。 紫玉は釵を洗った。……艶なる女優の心を得た池の面は、萌黄の薄絹・・・ 泉鏡花 「伯爵の釵」
・・・ 小川山の妖怪ござんなれと、右から左へ、左から右へ取って返して、小宮山はこの家の周囲をぐるぐると廻って窺いましたが、あえて要害を見るには当らぬ。何の蝸牛みたような住居だ、この中に踏み込んで、罷り違えば、殻を背負っても逃げられると、高を括って・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
・・・づくの秋子をまねけば小春もよしお夏もよし秋子も同じくよしあしの何はともあれおちかづきと気取って見せた盃が毒の器たんとはいけぬ俊雄なればよいお色やと言わるるを取附きの浮世噺初の座敷はお互いの寸尺知れねば要害厳しく、得て気の屈るものと俊雄は切り・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
出典:青空文庫