・・・然るを勝氏は予め必敗を期し、その未だ実際に敗れざるに先んじて自から自家の大権を投棄し、ひたすら平和を買わんとて勉めたる者なれば、兵乱のために人を殺し財を散ずるの禍をば軽くしたりといえども、立国の要素たる瘠我慢の士風を傷うたるの責は免かるべか・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・即ち私の心的要素を種々の事情の下に置いて、揉み散らし、苦め散らし、散々な実験を加えてやろう。そしたら、学術的に心持を培養する学理は解らんでも、その技術を獲ることは出来やせんか、と云うので、最初は方面を撰んで、実業が最も良かろうと見当を付けた・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
・・・されども両者ともに美の要素なることは論を竢たず。その分量よりして言わば消極的美は美の半面にして積極的美は美の他の半面なるべし。消極的美をもって美の全体と思惟せるはむしろ見聞の狭きより生ずる誤謬ならんのみ。日本の文学は源平以後地に墜ちてまた振・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・ 溝口というひとはこれからも、この作品のような持味をその特色の一つとしてゆく製作者であろうが、彼のロマンチシズムは、現在ではまだ題材的な要素がつよい。技法上の強いリアリスティックな構成力、企画性がこの製作者の発展の契機となっているのであ・・・ 宮本百合子 「「愛怨峡」における映画的表現の問題」
日本文学が近い将来に、どのような新たな要素をとりいれて進展してゆくだろうかという問題は、決して単純に答えられないことであると思う。日本の社会がこの先どうなって行くだろうかと訊かれて、簡単に答え得る人は、寧ろ今日の現実の裡で・・・ 宮本百合子 「明日の言葉」
・・・こういう意見も文化に対する政策というものが、その一つの構成要素として現在の幅のなかにふくんでいるものであろう。 日本の民衆にシェークスピアを理解させたいという希望が、そういう方法で思いつかれることは誰しも無限の感想を唆られると思う。・・・ 宮本百合子 「明日の実力の為に」
・・・未来派は心象のテンポに同時性を与える苦心に於て立体的な感覚を触発させ、従って立体派の要素を多分に含み、立体派は例えば川端康成氏の「短篇集」に於けるが如く、プロットの進行に時間観念を忘却させ、より自我の核心を把握して構成派的力学形式をとること・・・ 横光利一 「新感覚論」
・・・真紅になるのもあれば、紅の要素が非常に少なく、ほとんど黄色に近いのもある。芽の色に赤味が勝っていた樹は、紅葉の時の赤みも濃い、というような関係も目立ったが、また芽の出の最も遅かった樹がまっ先に紅葉するというような、逆の関係も目についた。年に・・・ 和辻哲郎 「京の四季」
・・・世界は確かに古昔の元子論者が見たごとくある基本要素の離合散集によって生じたのである。霊魂は肉体の作用であり肉体とともに滅びる。死とは活動の休止であり組織の解体であるがゆえに死後の生があるわけはない。この事実から眼をそむけて神と死後の生とを仮・・・ 和辻哲郎 「『偶像再興』序言」
・・・仏教の背後にその芸術的要素やシナの文化やその他種々のものが活らいていたからこそ、我々の祖先はあのように大きく動き始めたのである。そうしてついに大きい時代を現出する事ができたのである。 このことはやがて我々の祖先の一つの素質を説明すること・・・ 和辻哲郎 「偶像崇拝の心理」
出典:青空文庫