・・・この注意をうけた吾々は今まで全局に眼をちらつかせて要領を得んのに苦しんでいたのに、かく注意を受けたから、試みにその方へ視線をむけると、なるほど king が見えたのであります。明暸なのは局部に過ぎぬけれども、この局部が king を代表して・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・医師に対して自から自身の容態を述ぶるの法を知らず、其尋問に答うるにも羞ずるが如く恐るゝが如くにして、病症発作の前後を錯雑し、寒温痛痒の軽重を明言する能わずして、無益に診察の時を費すのみか、其医師は遂に要領を得ずして処方に当惑することありと言・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・ されども編末の備考に、「この書に載するところはただ倫理の要領のみにして、広く例を集めつまびらかに証を示すの業は、教師の本分としてこれを略せり。」とあるがゆえに、中学校、師範学校の教師が、本書を講ずるときに、種々様々の例証を引用して、学・・・ 福沢諭吉 「読倫理教科書」
・・・傍観者もまた球に注目せざればついにその要領を得ざるべし。今尋常の場合を言わば球は投者の手にありてただ本基に向って投ず。本基の側には必らず打者一人棒を持ちて立つ。投者の球正当の位置に来れりと思惟する時は(すなわち球は本基の上を通過しかつ高さ肩・・・ 正岡子規 「ベースボール」
・・・この時には両肩と両腕とでUの字になることが要領じゃ、徒にここが直角になることは血液循環の上からも又樹液運行の上からも必要としない。この形になることが要領じゃ。わかったか。六番」兵卒六「わかりました。カンデラーブル、U字形であります。」・・・ 宮沢賢治 「饑餓陣営」
・・・ この名前は横からひやかしにつけたのですが、大へんうまく要領を云いあらわしていますから、かまわず私どもも使うのです。 同情派と云いますのは、私たちもその方でありますが、恰度仏教の中でのように、あらゆる動物はみな生命を惜むこと、我々と・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・「今晩から来てよ、あの婆さんなかなか要領がいい。いざとなったら何にもしてくれる気がないらしい」 ふき子は、「岡本さん」と、大きな声で呼んだ。「はい」「陽ちゃんがいらしたから紅茶入れて頂戴」「はい」「ああでしょ・・・ 宮本百合子 「明るい海浜」
・・・此の事情のために若い少女達まで、いつの間にか闇は当り前。要領をうまくして、少しでもどっさり手に入れる方が得だというような考に、いつしか馴らされてしまっているのではないでしょうか。 女の人は今まで社会的に大変下手に出るよう馴らされて来てい・・・ 宮本百合子 「美しく豊な生活へ」
・・・ 何をしても要領を得ない様な、飄箪□□(なので、とげとげしたものの間を滑りまわるには却って捕えどころがなくて無事であった。 お金が口を酸くして、勝手な熱を吹いて居る間に恭二はいつの間にか隣りの部屋に行ってしまって居た。それに気のつい・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・でも丈夫そうで澄んで大きいいい眼付をしていて、やっぱり何だか要領を得ずニコニコしている顔は雄弁に感情を語るのだが、口の方は一向駄目で、変に隅によっかかったような恰好をして、本当にあの人らしいと云ったら! 大笑いです。私は二十三日にお目にかか・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
出典:青空文庫