・・・鮮やかな緋の色が、三味線の皮にも、ひく人の手にも、七宝に花菱の紋が抉ってある、華奢な桐の見台にも、あたたかく反射しているのである。その床の間の両側へみな、向いあって、すわっていた。上座は師匠の紫暁で、次が中洲の大将、それから小川の旦那と順を・・・ 芥川竜之介 「老年」
・・・今夜も出ていた。見台の横に番傘をしばりつけ、それで雪を避けている筈だが、黒いマントはしかし真っ白で、眉毛まで情なく濡れ下っていた。雪達磨のようにじっと動かず、眼ばかりきょろつかせて、あぶれた顔だった。人通りも少く、こんな時にいつまでも店を張・・・ 織田作之助 「雪の夜」
・・・元来其頃は非常に何かが厳重で、何でも復習を了らないうちは一寸も遊ばせないという家の掟でしたから、毎日々々朝暗いうちに起きて、蝋燭を小さな本箱兼見台といったような箱の上に立てて、大声を揚げて復読をして仕舞いました。そうすれば先生のところから帰・・・ 幸田露伴 「少年時代」
・・・と云って、見台を引き寄せた事であった。なんでもそこへなまめいた娘が薄茶か何か持って出ることになっていた。その若衆のしらじらしい、どうしても本の読めそうにない態度が、書見と云う和製の漢語にひどく好く適合していたが、この滑稽を舞台の外で、今繰り・・・ 森鴎外 「百物語」
出典:青空文庫