・・・だからこのごろときどき耳にする恋愛結婚より、見合結婚の方がましだなどと考えずに結婚に入る門はやはりどこまでも恋愛でなくてはならぬ。純な、一すじな、強い恋愛でなくてはならぬ。恋愛から入らずに結婚して、夫婦道の理想を立てようなどというのは、霊の・・・ 倉田百三 「愛の問題(夫婦愛)」
・・・そうして八年前に私と、平凡な見合い結婚をして、もうその頃から既にそろそろ東京では貸家が少くなり、中央線に沿った郊外の、しかも畑の中の一軒家みたいな、この小さい貸家をやっと捜し当て、それから大戦争まで、ずっとここに住んでいたのです。 夫は・・・ 太宰治 「おさん」
・・・大隅君だって、いそがしいからだである。見合いだけのために、ちょっと東京へやって来るというわけにも行かなかったようである。きょうはじめて、相逢うのだ。人生の、最も大事な日といっていいかも知れない。けれども大隅君は、どういうものか泰然たるもので・・・ 太宰治 「佳日」
・・・十九の春に見合いをして、それからすぐに、私は、ほとんど身一つで、あなたのところへ参りました。今だから申しますが、父も、母も、この結婚には、ひどく反対だったのでございます。弟も、あれは、大学へはいったばかりの頃でありましたが、姉さん、大丈夫か・・・ 太宰治 「きりぎりす」
・・・「このまま、見合いに行こうかしら」なぞと乱暴なこと言い出して、そのうちに、なんだかお寺さんご自身、見合いに、ほんとうに行くことにきまってしまったような錯覚を起したらしく、「こんな髪には、どんな色の花を挿したらいいの?」とか、「和服の・・・ 太宰治 「女生徒」
・・・それから二年経って、私は或る先輩のお世話で、平凡な見合い結婚をした。さらに二年を経て、はじめて私は一息ついた。貧しい創作集も既に十冊近く出版せられている。むこうから注文が来なくても、こちらで懸命に書いて持って行けば、三つに二つは買ってもらえ・・・ 太宰治 「東京八景」
・・・私は絹のものを、ぞろりと着流してフェルト草履をはき、ステッキを振り廻して歩く事が出来ないたちなので、その絹のものも、いきおい敬遠の形で、この一、二年、友人の見合いに立ち合った時と、甲府の家内の里へ正月に遊びに行った時と、二度しか着ていない。・・・ 太宰治 「服装に就いて」
一 亀井戸まで 久しぶりで上京した友人と東京会館で晩餐をとりながら愉快な一夕を過ごした。向こうの食卓には、どうやら見合いらしい老若男女の一団がいた。きょうは日がよいと見える。近ごろの見合いでは、たいてい婿殿・・・ 寺田寅彦 「蒸発皿」
・・・今でも見合いのランデヴーには毎日のように利用されているくらいである。球戯場などもあっても差支えはない。 しかし百貨店の可能性がまだどれほど残されているかは未知数である。その一つの可能性として考えられるものは、軽便で安価な「知識の即売」で・・・ 寺田寅彦 「夏」
・・・ ――深水から話があって、きょう三吉は彼女と「見合」するのである。 電気ベルが鳴りだして、鉄の門があいた。たちまちせきをきったように、人々が流れだしてくると、三吉はいそいで坂の中途から小径をのぼって、城内の練兵場の一部になった小公園へき・・・ 徳永直 「白い道」
出典:青空文庫