・・・近県近郷の学校の教師、無論学生たち、志あるものは、都会、遠国からも見学に来り訪うこと、須賀川の牡丹の観賞に相斉しい。で、いずれの方面からも許されて、その旦那の紳士ばかりは、猟期、禁制の、時と、場所を問わず、学問のためとして、任意に、得意の猟・・・ 泉鏡花 「神鷺之巻」
・・・ちょっと参観に、何といいましょう、――見学に、ほほほ。」 掃清めた広い土間に、惜いかな、火の気がなくて、ただ冷たい室だった。妙に、日の静寂間だったと見えて、人の影もない。窓の並んだ形が、椅子をかたづけた学校に似ていたが、一列に続いて、ざ・・・ 泉鏡花 「古狢」
・・・、これが日本の文化主義というものであろうと思って見れば、文化主義の猫になり、杓子になりたがる彼等の心情や美への憧れというものは、まことにいじらしいくらいであり、私のように奈良の近くに住みながら、正倉院見学は御免を蒙って不貞寝の床に「ライフ」・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・団体見学の学生が居眠っているのだった。たぶん今は真夜中だと感ちがいしたのだろう。それほど、プラネタリュウムが映しだす夜のリアリティは真に迫っていたのである。 織田作之助 「星の劇場」
・・・女子大の校庭のあさましい垣のぞきをしたり、ミス何とかの美人競争の会場にかけつけたり、映画のニューフェースとやらの試験場に見学と称してまぎれ込んだり、やたらと歩き廻ってみたが、いない。 獲物は帰り道にあらわれる。 かれはもう、絶望しか・・・ 太宰治 「グッド・バイ」
・・・そもそも吉原の女と言えば、女性の中で最もみじめで不仕合せで、そうして世の同情と憐憫の的である筈でございましたが、実際に見学してみますると、どうしてなかなか勢力のあるもので、ほとんどもう貴婦人みたいにわがままに振舞い、私は呶鳴られはせぬかとそ・・・ 太宰治 「男女同権」
・・・ 明治二十七八年日清戦争の最中に、予備役で召集されて名古屋の留守師団に勤めていた父をたずねて遊びに行ったとき、始めて紡績会社の工場というものの見学をして非常に驚いたものである。祖母が糸車で一生涯かかって紡ぎ得たであろうと思う糸の量が数え・・・ 寺田寅彦 「糸車」
・・・わが国の映画界のえらいスター諸君もちとあの猿や熊の顔を見学し研究するといい。 七 漫画の犬 このごろ見た漫画映画の内でおもしろかったのはミッキーマウスのシリーズで「ワン公大あばれ」と称するものである。その中で覚えず笑・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・ 話は変るが、一九一〇年頃ベルリン近郊の有名な某電機会社を見学に行ったときに同社の専売の電信印字機を見せてもらった。発信機の方はピアノの鍵盤のようなものにアルファベットが書いてあって、それで通信文をたたいて行くと受信機の方ではタイプライ・・・ 寺田寅彦 「変った話」
・・・ ある製造工場を見学するにしても、実際の場合は一見雑然とした機械の嵐のように運転する中を案内されて説明を聞いても眼が戸まどいをして視るべき要点を掴まえることが困難であるが、適当に編輯された映画で見れば、例えば飛行機なら飛行機の製造される・・・ 寺田寅彦 「教育映画について」
出典:青空文庫