・・・花道を繰り出して来た時、おやあれかと思い、熱心に近づく顔を見守ると別人だ。左の端から五人目のおどり子が、踊りながら頻りに此方を見、ふっとしなをする眼元を此方からも見なおしたら、それが桃龍であった。やんちゃな彼女が、さも尤もらしく桜の枝を上げ・・・ 宮本百合子 「高台寺」
・・・ けれども、此の稍々せんちめんたるな人が深夜、人気ない部屋に在って思う、こんな感動は、暫くすると、その感動を静かに見守る何物かによって、次第に其の光彩を失いかけて来た。 彼は父親のように自分を愛してくれる。 その静かな愛、鎮・・・ 宮本百合子 「樹蔭雑記」
・・・老僧は静かにその後に立って、消えかかる灯の様な法王の命を見守る。法王 神の――又――法王は絶え入る。うす暗がりの部屋の裡で恐ろしく集った人の群は魔の影の様に音もなくひしひしと中央にせまって来る。どっかで淋しいすす・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
・・・桃子のそういう態度は大変怜悧なようで、その実自分の心持を見守る手数をどこかで省いているか、投げているかのように感じられるのである。 音楽も抜群であるし、絵をかかせればやはり目をひくだけの才気を示し、人の心の動きを理解する力も平凡ではない・・・ 宮本百合子 「二人いるとき」
・・・ だが、私たちは、注意ぶかく、事のいきさつを見守る必要があると思う。例えば、国鉄の従業員が、生計費の値上りに耐えかねて待遇改善の要求をした。そしたら、国鉄の運賃は、飛び上った。昔から辛棒づよい社会勤労者の代表である逓信従業員が、生きなけ・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫