・・・学にあらわれたこの深淵は一般に微妙な時代的翳をなげていて、現代小説では人間の社会的な生活の物語と所謂生態描写との本質上の区別がぼやかされて来ているし歴史小説の分野では、時代と環境との客観的意義の評価を見直すことでは前進しつつ、そこにゆきかけ・・・ 宮本百合子 「昭和十五年度の文学様相」
・・・明治のロマンティック時代から作家生活を辿って来たこの粘り強い小説家が、云って見れば彼をもその波の下に置こうとするような時代の激しさに向い立って、勇猛心を動かされ、歴史と云うものを改めて見直す欲望から維新を背景とするこの長篇を書いたことは面白・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・ こういう文化・文学の問題にふれて六・三制の問題を、見直す必要がある。日本の国民学校六年の卒業生の実力が四年修業程度しかないことが、アメリカの教育視察団によって報告された。民主日本建設のために人民一般の知能水準の向上のために義務教育の年・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・刻々の裡に最善をつくして生きようとしている私たちの意欲の表現としての文学は、昨日の文学をよりひろい歴史的な視野において見直すとともに、明日の世代の文化へと前進しなければならない。容易ならないその仕事のために、私たちの成長のための何かの善意の・・・ 宮本百合子 「序(『文学の進路』)」
・・・かにぶつかれ、と云う声もあるとき、こういうのは愚劣な重複のようにも見えるが、今日あるなりの作家として現実にじかにぶつかれとだけ云われていることと、先ず作家としての自分を、その歴史性の自覚を、現実の中で見直す、ということとは、案外に深い開きを・・・ 宮本百合子 「人生の共感」
・・・その命令を下した人物さえ、それを見直すにたえないほどの惨虐が行われたのであった。何十万人かがその餌食とされた。生きのこった妻たちは、今日新しいヨーロッパの目ざめとともに、何を思い何を欲し、そして何を打ち立てようと希っている未亡人たちであろう・・・ 宮本百合子 「世界の寡婦」
・・・職場のサークルが、小説を書く人中心になりがちで、そのほかのサークル員の吸収をはばんでいるということが注目されて、新日本文学会は、文学の愛好者の意味を見直すように提案している。文連の第二回「文化会議」のサークルに関する懇談会記事に云われている・・・ 宮本百合子 「その柵は必要か」
・・・けれども彼女の場合には、自覚されていなかったそういう経験主義的な生活振りを、今日の私達が見直すと、そこにある破局は畢竟彼女がリアリストでなかったこと、或は彼女の熱と力との放散を質的に高める社会的な広範な基礎を生活の中にもっていなかったという・・・ 宮本百合子 「問に答えて」
・・・今日から明日への文学は、人生の根幹へ手を入れて、それをつかみ出して見直すだけの、社会的理解力を必要として来ている。婦人の文学的創造の可能がたっぷりつよくなるためにも、必要なのはそのことであると思う。〔一九四七年二月〕・・・ 宮本百合子 「婦人の生活と文学」
出典:青空文庫