・・・ それはいずれにしても、武士道というものに対しても西鶴が独自の見解をもっていて、その不合理と矛盾から起る弊害を指摘する心持があったであろうという想像は、マテリアリストとしての彼の全体から判断し推測してそれほど無稽なものではないと思われる・・・ 寺田寅彦 「西鶴と科学」
・・・かくのごとき見解と期待との相違より生ずる物議は世人一般の科学的知識の向上とともに減ずるは勿論なれども、一方学者の側においても、科学者の自然に対する見方が必ずしも自明的、先験的ならざる事を十分に自覚して、しかる後世人に対する必要もあるべし。(・・・ 寺田寅彦 「自然現象の予報」
・・・のみならず自身に取っては芸術上の問題を思索する事によって自分の専門の事柄に対して新しい見解や暗示を得る事も少なくないのである。それと同時に、科学者の芸術論が専門の芸術評論家の眼から見て如何に平凡幼稚なものであっても、芸術家の芸術論と多少でも・・・ 寺田寅彦 「津田青楓君の画と南画の芸術的価値」
・・・今の世を見るに、世人は飲食物を初めとして学術文芸に至るまで、各人個有の趣味と見解とを持っていることを認めない。十人十色の諺のあることは知っているらしいが、各自の趣味と見識とはその場合場合に臨んでは、忍んでこれを棄てべきものと思っているらしい・・・ 永井荷風 「西瓜」
・・・その時わたくしは弁駁の辞をつくったが、それは江戸文学に関して少しく見解を異にしているように思ったからで、わたくしは自作の小説については全く言う事を避けた。自作について云々するのはどうも自家弁護の辞を弄するような気がして書きにくかった故である・・・ 永井荷風 「正宗谷崎両氏の批評に答う」
・・・さあ婆さん驚くまい事か、僕のうちに若い女があるとすれば近い内貰うはずの宇野の娘に相違ないと自分で見解を下して独りで心配しているのさ」「だって、まだ君の所へは来んのだろう」「来んうちから心配をするから取越苦労さ」「何だか洒落か真面・・・ 夏目漱石 「琴のそら音」
・・・なるほど一時は在来の型で抑えられるかも知れないが、どうしたって内容に伴れ添わない形式はいつか爆発しなければならぬと見るのが穏当で合理的な見解であると思う。 元来この型そのものが、何のために存在の権利を持っているかというと、前にもお話した・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・局長は余に文部省の意志を告げ、余はまた局長に余の所見を繰返して、相互の見解の相互に異なるを遺憾とする旨を述べ合って別れた。 翌十二日に至って、福原局長は文部省の意志を公けにするため、余に左の書翰を送った。実は二カ月前に、余が局長に差出し・・・ 夏目漱石 「博士問題の成行」
・・・文芸の目的が徳義心を鼓吹するのを根本義にしていない事は論理上しかるべき見解ではあるが、徳義的の批判を許すべき事件が経となり緯となりて作物中に織り込まれるならば、またその事件が徳義的平面において吾人に善悪邪正の刺戟を与えるならば、どうして両者・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・この話は幼稚でありますが、今のイブセンの道徳の見解からいっても、イブセンはイミテーションという側の反対に立った人といわなければならない訳であります。 それで、人間にはこの二通りの人がある。というと、片方と片方は紅白見たように別れているよ・・・ 夏目漱石 「模倣と独立」
出典:青空文庫