・・・……おお、よちよち、と言った工合に、この親馬鹿が、すぐにのろくなって、お飯粒の白い処を――贅沢な奴らで、内のは挽割麦を交ぜるのだがよほど腹がすかないと麦の方へは嘴をつけぬ。此奴ら、大地震の時は弱ったぞ――啄んで、嘴で、仔の口へ、押込み揉込む・・・ 泉鏡花 「二、三羽――十二、三羽」
・・・俗に親馬鹿という事があるが、その親馬鹿が飛んでもない悪いことをした。親がいつまでも物の解ったつもりで居るが、大へんな間違いであった。自分は阿弥陀様におすがり申して救うて頂く外に助かる道はない。政夫や、お前は体を大事にしてくれ。思えば民子はな・・・ 伊藤左千夫 「野菊の墓」
・・・などと騒ぐ。親馬鹿というものに酷似している。いい図ではない。 日本には「誠」という倫理はあっても、「純真」なんて概念は無かった。人が「純真」と銘打っているものの姿を見ると、たいてい演技だ。演技でなければ、阿呆である。家の娘は四歳であるが・・・ 太宰治 「純真」
・・・それは親馬鹿という嘲笑を得たくない心からであろうか。ひょっとすると何かもっと軽はずみな、ひともうけしようという下心からであったかも知れぬ。 幼いころの神童は、二三年してようやく邪道におちた。いつしか太郎は、村のひとたちからなまけものとい・・・ 太宰治 「ロマネスク」
出典:青空文庫