・・・現実のそれぞれの局面に付せられている名称や説明は、それとして現実の実際の解明と等しいものではないことが生活感情としては何となし直感されている。だがその現実の二重焼つけのような映像に対して、どんな態度かと云えば極めて心理的な麻痺の状態におかれ・・・ 宮本百合子 「今日の読者の性格」
・・・家の一生とそこにのこされている文学的業績とから私達が遺産として価値あるものを獲て行こうと努力する場合、私たちの探求の中心は常にその作家の生活態度の中に現れ、従って各作品に鋭くふくまれて出ている諸矛盾の解明というところにおかれざるを得ないよう・・・ 宮本百合子 「作家研究ノート」
・・・蔵原惟人の芸術論のなかではまだ筆者自身にとって曖昧にしかとらえられていなかった芸術性というものをも、文学原理として、ここで初めてはっきり会得出来るものとして解明されている。「文学史と批評の方法」で、著者は過去の理解が、現実の歴史との関係で文・・・ 宮本百合子 「作家に語りかける言葉」
・・・特に、今日の科学では未だ現実の諸現象のあまねき隅々までを、すべての人々の感情に納得ゆくように解明し切らない部分がのこされていることが、科学者自身の生きかたにさえ妙な信念の欠乏と分裂とをおこさせている実例が決して尠くない。この分裂において、ヨ・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・小林秀雄の文芸批評が、当時から一般読者に迎えられるようになったのは、それが時代と文学の在りようを解明する力を持っていたからではなくて、その力を失った所謂知性の時代的なスタイルそのものが共感をもたれたことが最大の原因である。 この評論家と・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・の中では、そのより正当な解明を与えている。今日の読者は、一人の筆者においてあらわれるこのような或る種の矛盾に対して、文化的明察の敏感性をもたなければならないと思う。そのような矛盾のよって来るところを我が文化の当面している問題として考える力を・・・ 宮本百合子 「世代の価値」
・・・つまり、勤労者として生き、社会に学び、この作者ぐらい現実の解明力としての勉学の意味も理解していると、いつか、モティーヴそのものの社会性が深まりひろがって、たとえば「町工場」で描かれているような「貧困」そのものにたいしてもおのずから私という主・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・そのような一郎の姿、二郎の在りよう、それを客観的に観察し、解明するHさんは、猫に先生である自分を観察させた作家漱石の自己への客観的態度の又の表現であろう。これだけ手のこんだ構成のなかで、漱石は偽りでかためられている家庭として自分の家庭を感じ・・・ 宮本百合子 「漱石の「行人」について」
・・・最後の言葉=彼にとっての和解は、とりもなおさず 彼自身制御し得なかった彼の芸術家の歴史性の解明力に存する というのは、何と劇的な、心を打つ眺めであろう。 ツワイクは、一九一九年にこの本を出した。しかし彼はこの部分では、分析のメスを浅くす・・・ 宮本百合子 「ツワイク「三人の巨匠」」
・・・そのために去年の大会の時もとりあげられたように、日本の民主革命と民族の自主的発展の課題に根をおいて、堂々とブルジョア文学の動き、民主主義文学の動きをひっくるめてその相互関係を解明したような批評活動は、不足でした。日本のこんにちには、かつての・・・ 宮本百合子 「討論に即しての感想」
出典:青空文庫