・・・ ばかに自分の事ばかり書きすぎたようにも思うが、しかし、作家が他の作家の作品の解説をするに当り、殊にその作家同士が、ほとんど親戚同士みたいな近い交際をしている場合、甚だ微妙な、それこそ飛石伝いにひょいひょい飛んで、庭のやわらかな苔を踏ま・・・ 太宰治 「『井伏鱒二選集』後記」
・・・ しかし私は、いま、ここで柳多留の解説を試みようとしているのではない。実は、こないだ或る無筆の親に逢い、こんな川柳などを、ふっと思い出したというだけの事なのである。 罹災したおかたには皆おぼえがある筈だが、罹災をすると、へんに郵便局・・・ 太宰治 「親という二字」
・・・巻末の解説を読むと、これは、ドイツ、オーストリア、ハンガリーの巻であることがわかります。いちども名前を聞いたことの無いような原作者が、ずいぶん多いですね。けれども、そんなことに頓着せず、めくらめっぽう読んで行っても、みんなそれぞれ面白いので・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・東京に住む俗な友人は、北京の人の諤々たる時事解説を神妙らしく拝聴しながら、少しく閉口していたのも事実であった。私は新聞に発表せられている事をそのとおりに信じ、それ以上の事は知ろうとも思わない極めて平凡な国民なのである。けれども、また大隅君に・・・ 太宰治 「佳日」
・・・アサヒグラフ所載のものであって、児島喜久雄というひとの解説がついている。「背景は例の暗褐色。豊かな金髪をちぢらせてふさふさと額に垂らしている。伏目につつましく控えている碧い神経質な鋭い目も、官能的な桜桃色の唇も相当なものである。肌理の細かい・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・の死体を解剖して、その眼球を顕微鏡でもって調べその網膜に美しい一家団欒の光景が写されているのを見つけて、友人の小説家にそれを報告したところが、その小説家はたちどころにその不思議の現象に対して次のような解説を与えた。その若い水夫は難破して怒濤・・・ 太宰治 「雪の夜の話」
・・・それで映画を論ずる場合に映画の技術に関する科学的の基礎と、その主要なテクニークについて一通りの解説をするのが順序であるが、この一編の限られた紙数の中にこれを述べている余地がないから、ここではいっさいこれらを省略する。しかし大多数の読者がこの・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・こういうことは作曲者かあるいは指揮者を同伴して演奏会へ行っても容易に得られない無言の解説である。カルメンの中の独唱でも、管弦楽の進行の波頭が指揮者のふりかざした両腕から落ちかかるように独奏者のクローズアップに推移して同時にその歌を呼出すとい・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(5[#「5」はローマ数字、1-13-25])」
・・・ただ一つはなはだしく不満に思われたのは、せっかくの実写に対する説明の言葉が妙に気取り過ぎていて、自分らのような観客にとっていちばん肝心の現実的な解説が省かれていることであった。たとえば場面が一転して、海上から見た島山の美しい景色が映写された・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・そうしてこの後のほうの命題は、それを指摘し解説する人が比較的に少数である。 この一見相反する二つの命題は実は一つのものの互いに対立し共存する二つの半面を表現するものである。この見かけ上のパラドックスは、実は「あたま」という言葉の内容に関・・・ 寺田寅彦 「科学者とあたま」
出典:青空文庫