・・・ 作品は、面白く読ませるということを、一条件としなければならぬのは、言うまでもない。しかし、何が面白く、何が面白くないということも、読者の態度と要求によって検議を要する。ただ、作品は、筋の面白味を言うのでないということだけは、少し思想の・・・ 小川未明 「何を作品に求むべきか」
・・・志賀山流の伝統保存のためであることは言うまでもない。――こんな話を、私は三ちゃんに語ったのである。 織田作之助 「起ち上る大阪」
・・・私の予感していた不眠症が幾晩も私を苦しめたことは言うまでもない。 梶井基次郎 「器楽的幻覚」
・・・実在かどうかは、言うまでもない。作者は、いま、理由もなく不機嫌である。 太宰治 「俗天使」
・・・そこで目差す女が平凡な容貌でないことは、言うまでもない。女は女優である。遊んだり、人のおもちゃになったりしていずに、少し稽古でもしたら、立派な俳優になった女かも知れない。どうかして舞台で旨い事をしたのを、劇評家が見て、あれは好く導いて発展さ・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
・・・やはり観察と分析と推理の正確周到を必要とするのは言うまでもないことである。 つまり、頭が悪いと同時に頭がよくなくてはならないのである。 この事実に対する認識の不足が、科学の正常なる進歩を阻害する場合がしばしばある。これは科学にたずさ・・・ 寺田寅彦 「科学者とあたま」
・・・は創作であり、そこらの三文小説は小説ではないことは事新しく言うまでもないことである。 こういうふうに考えて来るといわゆる「創作」と随筆との区別は、他の多くの「分類」の場合と同じく、漸移的不決定的なものである。ただ便宜上、いわゆる小説家戯・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・もっと穏やかでないものならいくらでもあることは言うまでもない。今日のような世の中ではこういう方法を取るよりほかにしかたがないというところから、自然に流行するようになったものと思われる。ああいう方法によれば少なくも一時的の効果はある程度まで得・・・ 寺田寅彦 「神田を散歩して」
・・・ そうかと言って陶器の需要のない所には陶土の要求もあるはずはないのは言うまでもないことである。 しかし、そういう理屈はいっさい抜きにして、あの陶工の両手の間で死んだ土塊が真に生き物のように生長して行く光景を見ている瞬間には、どうして・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・ 手ぬぐい一筋でも箸一本でも物は使いよう次第で人を殺すこともできれば人を助けることもできるのは言うまでもないことである。 おとぎ話というものは、だいたいにおいて人間世界の事実とその方則とを特殊な譬喩の形式によって表現したものである。・・・ 寺田寅彦 「さるかに合戦と桃太郎」
出典:青空文庫