・・・詩がその時代の言語を採用したということも、その尊い実行の一部であったと私は見る。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~ むろん、用語の問題は詩の革命の全体ではない。 そんなら将来の詩はどういうものでなければならぬか。現在の諸・・・ 石川啄木 「弓町より」
・・・ 人の事は云われないが、連の男も、身体つきから様子、言語、肩の瘠せた処、色沢の悪いのなど、第一、屋財、家財、身上ありたけを詰込んだ、と自ら称える古革鞄の、象を胴切りにしたような格外の大さで、しかもぼやけた工合が、どう見ても神経衰弱という・・・ 泉鏡花 「革鞄の怪」
・・・自分が雨中を奔走するのはあえて苦痛とは思わないが、牛が雨を浴みつつ泥中に立っているのを見ては、言語にいえない切なさを感ずるのである。 若い衆は代り代り病気をする。水中の物もいつまで捨てては置けず、自分の為すべき事は無際限である。自分は日・・・ 伊藤左千夫 「水害雑録」
・・・僕の胸があまり荒んでいて、――僕自身もあんまり疲れているので、――単純な精神上のまよわしや、たわいもない言語上のよろこばせやで満足が出来ない。――同情などは薬にしたくも根が絶えてしまった。 僕は妻のヒステリをもって菊子の毒眼を買い、両方・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・ただこの一夜を語り徹かした時の二葉亭の緊張した相貌や言語だけが今だに耳目の底に残ってる。三 食道楽と無頓着 二葉亭には道楽というものがなかった。が、もし強て求めたなら食道楽であったろう。無論食通ではなかったが、始終かなり厳ま・・・ 内田魯庵 「二葉亭余談」
・・・まるきり言語の通ぜぬ外国人同士のようである。いつも女房の方が一足先に立って行く。多分そのせいで、女学生の方が何か言ったり、問うて見たりしたいのを堪えているかと思われる。 遠くに見えていた白樺の白けた森が、次第にゆるゆると近づいて来る。手・・・ 著:オイレンベルクヘルベルト 訳:森鴎外 「女の決闘」
・・・そしてそれの暗示する言語が東京のそれでもなく、どこのそれでもなく、故郷の然も私の家族固有なアクセントであることを知りました。――おそらく私は一生懸命になっていたのでしょう。そうした心の純粋さがとうとう私をしてお里を出さしめたのだろうと思いま・・・ 梶井基次郎 「橡の花」
・・・先生はこの頃になって酒を被ること益々甚だしく倉蔵の言った通りその言語が益々荒ら荒らしくその機嫌が愈々難かしくなって来た。殊に変わったのは梅子に対する挙動で、時によると「馬鹿者! 死んで了え、貴様の在るお蔭で乃公は死ぬことも出来んわ!」とまで・・・ 国木田独歩 「富岡先生」
・・・かかる人間はアトム的な個人の人格と人格とが、後から相互の黙契によって結びつき、社会をつくるのでなく、当初から相互融入的であり、その住居、衣食、言語風習まで徹頭徹尾共同生活態に依属しているところの、アトム的ならぬ共同人間である人倫の事実は外に・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・共同体の基本は父母であり、氏族であり、血と土地と言語と風習と防敵とを共同にするところの、具体的単位がすなわちくになのである。共生ということの意味を生活体験的に考えるならば、必ず父母を基として、国土に及ばねばならぬ。そしてわれわれに文化伝統を・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
出典:青空文庫