・・・然らずんば言論の自由を与えよ。 人間的な、余りに人間的な 人間的な、余りに人間的なものは大抵は確かに動物的である。 或才子 彼は悪党になることは出来ても、阿呆になることは出来ないと信じていた。が、何年・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・成島柳北や沼間守一が言論の機関としていた時代と比べて之を堕落と云うものあらば時代を解せざる没分暁の言として見らるゝであろう。其通りに雑誌も亦一つのビジネスであるが、二十五年前には僅に「経済雑誌」、「団々珍聞」等二三の重なる雑誌でさえが其執筆・・・ 内田魯庵 「二十五年間の文人の社会的地位の進歩」
・・・がかつて右翼陣営の言論人として自他共に許し、さかんに御用論説の筆を取っていた新聞の論説委員がにわかに自由主義の看板をかついで、恥としない現象も、不愉快であった。 だが、私たちはもはや欺されないであろう。私たちの頭が戦争呆けをしていない限・・・ 織田作之助 「終戦前後」
・・・ 家人を相手に言ったのは、何気なく出た冗談だったが、ふと思えば、前代未聞の言論の束縛を受けたあと未曾有の言論の自由が許された今日、永い間の念願も果せるわけだった。 しかし、公判記録を読んでからもう三年になる。三年の歳月は私の記憶を薄・・・ 織田作之助 「世相」
・・・うで、まことに御同慶のいたり、もうこれからは、女子は弱いなどとは言わせません、なにせ同権なのでございますからなあ、実に愉快、なんの遠慮も無く、庇うところも無く、思うさま女性の悪口を言えるようになって、言論の自由のありがたさも、ここに於いて極・・・ 太宰治 「男女同権」
・・・ その短篇集の著者が、万世一系かどうか、それは彼の言論の自由のしからしむるところであろうから、敢えて不問に附するとしても、それに較べて私が乞食だという彼の断案には承知できないものがあった。としの若いやつと、あまり馴れ親しむと、えてしてこ・・・ 太宰治 「母」
・・・いかに言論の自由とは言っても、それは少しここに書くのがはばかりのあるくらいの、大偉人の名を彼は平然と誇らしげに述べて、「いいですか? これは確実な事ですが、しかし、当分は秘密にして置いたほうがいいでしょう。民衆の誤解を招いてもつまりませんか・・・ 太宰治 「女神」
・・・そして言論や行動の自由が許されている。春秋の筆法が今は行なわれないのであろう。そうでなければこんな事もうっかりは言われない。 世田が谷近くで将校が二人乗った。大尉のほうが少佐に対して無雑作な言語使いでしきりに話しかけていた。少佐は多く黙・・・ 寺田寅彦 「写生紀行」
・・・そうして言論や文字や美術品を手掛かりとするこれと同様な研究よりもいっそう有力でありうる見込みがある。なぜかと言えば各民族の化け物にはその民族の宗教と科学と芸術とが総合されているからである。 しかし不幸にして科学が進歩するとと・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
・・・だが、困った事には、怨霊の手段としての、言論や文字や、棍棒は禁圧が出来たが、怨霊そのものについては? こいつは全で空気と同じく、あらゆる地面を蔽ってはいたが、捕えるのに往生した。 下の関行きの、二三等直通列車が走った。 彼は、長・・・ 葉山嘉樹 「乳色の靄」
出典:青空文庫