・・・ 源氏物語にも言辞事物の注のほかに深き観念あるを説いて止観の説という。この公の源語の注の孟津抄は、法華経の釈に玄義、文句とありて扨、止観十巻のあるが如く、源氏についての止観の意にて説かれたということである。非常な源氏の愛読者で、「これを・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・当時の甘い批評家たちが、女の作家の二、三の著書に就いて、女性特有の感覚、女で無ければ出来ぬ表現、男にはとてもわからぬ此の心理、などと驚歎の言辞を献上するのを見て、彼はいつでも内心、せせら笑って居りました。みんな男の真似ではないか。男の作家た・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・「亡国の言辞ですよ。君は、人がいいから、だめだなあ。そいつの言ってる秩序ってのは、古い昔の秩序の事なんだ。古典擁護に違いない。フランスの伝統を誇っているだけなんですよ。うっかり、だまされるところだった。」「いや、いや、」私は狼狽して、あ・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・れにもその生葡萄酒ちょうものを一杯ついでもらいたい、ふむ、これが生葡萄酒か、ぺっぺ、腐った酢の如きものじゃないか、ごめんこうむる、あるじ勘定をたのむ、いくらだ、とわれを嘲弄せんとする意図あからさまなる言辞を吐き、帰りしなにふいと、老人、気を・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・これを充分に理解するためには、その子供をしてそういう言辞を言わしむるようになった必然な沿革や環境や与件を知悉しなければならない。それを知らなければ畢竟無理解没分暁の親爺たる事を免れ難いかもしれない。ましてや内部生活の疎隔した他人はなおさらの・・・ 寺田寅彦 「相対性原理側面観」
・・・ 従って現代の教育の傾向、文学の潮流が、自然主義的であるためにボツボツその弊害が表われて、日本の自然主義という言辞は甚だしく卑しむべきものになって来た。けれどもこれは間違である。自然主義はそんな非倫理的なものではない、自然主義そのものは・・・ 夏目漱石 「教育と文芸」
・・・我々の背後にはただ他より優秀なる鑑賞力と、他より超越せる判断力があるのみで、単にこれがためにわが言辞にそれ相応の権威を生ずるのである。 この権威を最後最上の権威であれかしと冀うのは、我々の欲望であって、一般に通ずる事実ではない。これを事・・・ 夏目漱石 「文芸委員は何をするか」
・・・も少し言辞に気をつけて申し上げます。ええ、犬はそれを食べます。ぐんぐん喰べます。お判りですか。又家畜を去勢します。則ち生殖に対する焦燥や何かの為に費される勢力を保存するようにします。さあ、家畜は肥りますよ、全く動物は一つの器械でその脚を疾く・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・ だからといって作家同盟の方向が根本的に誤っているとか、または林房雄の憫然たるアナーキー性の爆発的言辞を引用すれば「鎌倉に引込んだ僕の方がプロレタリア的仕事をするから見ていろ」などというに至っては、すでに論外である。 真にプロレタリ・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・また、アメリカ聖教会機関紙『ウイットネス』は、MRAの労資協調論を批評して「美くしい宗教言辞のかげでMRAはなぜ世界最大の財団デュ・ポンの恩寵をうけねばならないのか」と急所をついている。 ジェスチュアでない世界平和と民主的社会の建設のた・・・ 宮本百合子 「再武装するのはなにか」
出典:青空文庫