・・・ 大河今蔵の日記は以上にて終りぬ。彼は翌日誤って舟より落ち遂に水死せるなり。酔に任せ起って躍りいたるに突然水の面を見入りつ、お政々々と連呼してそのまま顛落せるなりという。 記者去年帰省して旧友の小学校教員に会う、この日記は彼の手に秘・・・ 国木田独歩 「酒中日記」
・・・ 私の知ってるある文筆夫人に、女学校へも行かなかった人だが、事情あって娘のとき郷里を脱け出て上京し、職業婦人になって、ある新聞記者と結婚し、子どもを育て、夫を助けて、かなり高い社会的地位まで上らせ、自分も独学して、有名な文筆夫人になって・・・ 倉田百三 「愛の問題(夫婦愛)」
・・・女優や、音楽家や、画家、小説家のような芸術的天分ある婦人や、科学者、女医等の科学的才能ある婦人、また社会批評家、婦人運動実行家等の社会的特殊才能ある婦人はいうまでもなく、教員、記者、技術家、工芸家、飛行家、タイピストの知能的職業方面への婦人・・・ 倉田百三 「婦人と職業」
・・・ 記者は、なお、兵士たちを見まわしつゞけた。 兵士たちは、お互いに顔を見合わして黙っていた。記者は開けたばかりの慰問袋や、その中味や、子供の手紙にどんなことが書いてあるか、そういうことをたずねるのだった。兵士たちは、やはり、お互いに・・・ 黒島伝治 「前哨」
・・・ 国木田独歩は、明治二十七八年の戦争の際、国民新聞の従軍記者として軍艦千代田に乗組んでいた。その従軍通信のはじめの方に、「余に一個の弟あり。今国民新聞社に勤む。去んぬる十三日、相携へて京橋なる新聞社に出勤せり。弟余を顧みて曰く、秀吉・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
一 官吏、教師、商人としての兆民先生は、必ずしも企及すべからざる者ではない。議員、新聞記者としての兆民先生も、亦世間其匹を見出すことも出来るであろう。唯り文士としての兆民先生其人に至っては、実に明治当代の最も偉大なるものと言わね・・・ 幸徳秋水 「文士としての兆民先生」
・・・ それから、とうさんが生活を変えると言ったら、事あれかしの新聞記者なぞに大袈裟に書き立てられても迷惑しますから、しばらくこの手紙の内容はおまえたちだけで承知していてください。友人にも世間の人たちにもおりを見てぽつぽつ知らせるつもりです。・・・ 島崎藤村 「再婚について」
・・・仕入れて、店先には新しいのれんを出し、いかに貧乏の店でも張り切って、お客への愛嬌に女の子をひとり雇ったり致しましたが、またもや、あの魔物の先生があらわれまして、こんどは女連れでなく、必ず二、三人の新聞記者や雑誌記者と一緒にまいりまして、なん・・・ 太宰治 「ヴィヨンの妻」
・・・ 夫のお友達の方から伺ったところに依ると、その女のひとは、夫の以前の勤め先の、神田の雑誌社の二十八歳の女記者で、私が青森に疎開していたあいだに、この家へ泊りに来たりしていたそうで、姙娠とか何とか、まあ、たったそれくらいの事で、革命だの何・・・ 太宰治 「おさん」
・・・そこには最新の出来事を知っていて、それを伝播させる新聞記者が大勢来るから、噂評判の源にいるようなものである。その噂評判を知ることも、先ず益があって損のない事である。 この店に這入って据わると、誰でも自分の前に、新聞を山のように積み上げら・・・ 著:ダビットヤーコプ・ユリウス 訳:森鴎外 「世界漫遊」
出典:青空文庫