・・・等の小区分を設けているのである。 映画素材から映画を作り上げる編集方法としてのモンタージュはそもそも映画始まって以来行なわれて来たものに相違ないのであるが、しかし初期の映画において、単に海岸に打ち寄せる波の遊びを見せたり、あるいは舞台演・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・ 上野公園地丘陵の東麓に鉄道の停車場が設けられたのは明治十六年七月である。停車場及鉄道線路の敷地となった処には維新前には下寺と呼ばれた寛永寺所属の末院が堂舎を連ねていた。此処に停車場を建てて汽車の発着する処となしたのは上野公園の風趣を傷・・・ 永井荷風 「上野」
・・・ただ自他の関係を知らず、眼を全局に注ぐ能わざるがため、わが縄張りを設けて、いい加減なところに幅を利かして満足すべきところを、足に任せて天下を横行して、憚からぬのが災になる。人が咎めれば云う。おれの地面と君の地面との境はどこだ。境は自分がきめ・・・ 夏目漱石 「作物の批評」
・・・是れより以上醜行の稍や念入にして陰気なるは、召使又は側室など称し、自家の内に妾を飼うて厚かましくも妻と雑居せしむるか、又は別宅を設けて之を養い一夫数妾得々自から居る者あり。正しく五母鶏、二母じぼていの実を演ずるものにして、之を評して獣行と言・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・別荘造りのような構えで、真ん中に広い階段があって、右の隅に寄せて勝手口の梯が設けてある。家番に問えば、目指す家は奥の住いだと云った。 オオビュルナンは階段を登ってベルを鳴らした。戸の内で囁く声と足音とがして、しばらくしてから戸が開いた。・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・ されば曙覧が歌の材料として取り来るものは多く自己周囲の活人事活風光にして、題を設けて詠みし腐れ花、腐れ月に非ず。こは『志濃夫廼舎歌集』を見る者のまず感ずるところなるべし。彼は自己の貧苦を詠めり、彼は自己の主義を詠めり。亡き親を想いては・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・向うには勿論花で飾られた高い祭壇が設けられていました。そのとき、私は又、あの狼煙の音を聞きました。はっと気がついて、私は急いでその音の方教会の裏手へ出て行って見ました。やっぱり陳氏でした。陳氏は小さな支那の子供の狼煙の助手も二人も連れて来て・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・仕事の性質上婦人が多いので、ここの衛生委員は特別に歯科の診療所を工場内に設けた。小ざっぱりとした白い壁の小部屋で、ピカピカ清潔な医療道具がガラス箱の内に揃っている。白い上っぱりを着た医者が一人の女の患者を扱っているところだった。「女はど・・・ 宮本百合子 「明るい工場」
・・・自ら席を設けて公衆に語るようになった。柵草紙と云ったのがその席だ。この柵草紙の盛時が、即ち鴎外という名の、毀誉褒貶の旋風に翻弄せられて、予に実に副わざる偽の幸福を贈り、予に学界官途の不信任を与えた時である。その頃露伴が予に謂うには、君は好ん・・・ 森鴎外 「鴎外漁史とは誰ぞ」
・・・彼女の部屋はチュイレリーの宮殿の中で、ナポレオンの寝室の隣りに設けられた。しかし、新しきナポレオン・ボナパルトは、またこの古い宮殿の寝室の中で、彼の厖大な田虫の輪郭と格闘を続けなければならなかった。 ナポレオンは若くして麗しいルイザを愛・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
出典:青空文庫