・・・闇市で証紙を売っていたということだが、まさかこんな風に出て来た紙幣に貼るわけでもないだろう」 そう言うと、彼は急に眼を輝した。「へえ……? 証紙を売ってるって? 闇市で、そうか。たしかに売ってるのか。どこの闇市?」「いやに熱心だ・・・ 織田作之助 「鬼」
・・・が、調べてみると、三枚とも証紙の貼ってない旧円だった。葉子はわっと泣き出した。 次の夜また出掛けた。男がからかいに来ると、葉子は、「いやです、いやです、旧円はいやです」 織田作之助 「報酬」
・・・ちょうど円貨の切り換えがあり、こんな片田舎の三等郵便局でも、いやいや、小さい郵便局ほど人手不足でかえって、てんてこ舞いのいそがしさだったようで、あの頃は私たちは毎日早朝から預金の申告受附けだの、旧円の証紙張りだの、へとへとになっても休む事が・・・ 太宰治 「トカトントン」
・・・あれだけの小さな証紙、あの悪い印刷の小さな膏薬みたいなような証紙を、なんともしようのない、病人であるいまの経済状態のところへ、ちょっと貼って、彌縫するように貼って持って歩いている。ところが、モラトリアムになってから、新聞の記事を御覧になって・・・ 宮本百合子 「幸福について」
出典:青空文庫