・・・ 子供らが叫んでばらばら走って来て童子に詫びたり慰めたりいたしました。或る子は前掛けの衣嚢から干した無花果を出して遣ろうといたしました。 童子は初めからお了いまでにこにこ笑っておられました。須利耶さまもお笑いになりみんなを赦して童子・・・ 宮沢賢治 「雁の童子」
・・・あやまれといわれたことに対して、体じゅうをブルブルふるわし「私は詫びにきたのではありません。主張をしにきたのだ」と叫び、あわてふためく同僚に「私は、私は……」と叫びつつかつぎ出される光景をもって結んでいるのである。 伏字によってこの小説・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・食事の時間にお客が来ると、来たお客が恐縮するかわりに、却って食事中の主人一家の方があわてて、すまないことでもしているように、失礼いたしまして、と詫びたりします。 これは、日本独特の習慣であると思います。いい食事をするのも、乏しい食事・・・ 宮本百合子 「公のことと私のこと」
・・・第一審判決後の第一信に「裁判長の趣意は、今の私の立場も心境も充分認めた上、命をもって国民に詫びよ、というのです」と平静に告げられている。そのくだりを読んだとき、私の心には一つの叫びがあった。「命をもって詫びよ。それは尾崎氏らを殺した人々に向・・・ 宮本百合子 「人民のために捧げられた生涯」
・・・御邪魔になりやすっぺ。と云う。 疲れた様な足つきの婆さんに中央を歩かせて私はわきの草中を行く。 甚助の家へ今朝よったから昨日のことを話した。御詫びに行くと云って居たがほんとに行ったか、なんかと云う。 子供のことを一々そん・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・出て来た梶の妻も食べ物の無くなった日の詫びを云ってから、胡瓜もみを出した。栖方は、梶の妻と地方の言葉で話すのが、何より慰まる風らしかった。そして、さっそく色紙へ、「方言のなまりなつかし胡瓜もみ」という句を書きつけたりした。 栖方・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫