・・・初めは本当の事のように活溌な調子で話すがよい。末の方になったら段々小声にならなくてはいけない。 一 町なかの公園に道化方の出て勤める小屋があって、そこに妙な男がいた。名をツァウォツキイと云った。ツァウォツキイはえらい・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「破落戸の昇天」
・・・ 彼は手紙に書かなかった妻の病状をもう母親に話す気は起らなかった。彼は妻を母親に渡しておいてひとり日光室へ来た。日光室のガラスの中では、朝の患者たちが籐の寝椅子に横たわって並んでいた。海は岬に抱かれたまま淑かに澄んでいた。二人の看護婦が・・・ 横光利一 「花園の思想」
・・・情熱、確信という点においては聴衆以上であるとしても、話すことの内容は反って聴衆の知識よりも貧しいであろう。それでも演説者のまわりに何か迷信の靄がかかっていれば、多くの宗教家や政治演説家がそうであるように、内容の貧弱な言葉をもってしても何かの・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
出典:青空文庫