・・・殊に少年や少女などに画本や玩具を与える傍ら、ひそかに彼等の魂を天国へ誘拐しようとするのは当然犯罪と呼ばれなければならぬ。保吉の隣りにいる少女も、――しかし少女は不相変編みものの手を動かしながら、落ち着き払った返事をした。「ええ、それは知・・・ 芥川竜之介 「少年」
・・・婦女誘拐罪。咎人だよ、あれは。ろくなことを、しやしない。要らないことを、そそのかして、そうしてまたのこのこ、平気でここへ押しかけて来て、まるで恩人か何かのように、あの、きざな口のきき様ったら。どこまで、しょってるのか、判りゃしない。阿呆や。・・・ 太宰治 「火の鳥」
・・・「義理と人情づくめ誘拐」であった。しかしそれも大した功を奏しなかった。そこで今度は、スキャップ政策をとったが、それも強固な争議団の妨碍のために、予測程の成功ではなかった。トラックの中に、荷物の間に五六人のスキャップを積み込んで、会社間近まで・・・ 徳永直 「眼」
・・・幼児誘拐も報ぜられている。天然痘、発疹チブスの危険も全市にひろがろうとしている。 これらすべての危期が、愛する日本を覆い、私たちの時々刻々を脅かしているのである。 四月十日の総選挙をめざして、各政党が、どう党費をまかなっているか、「・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫