・・・ と、まだ寝ないで、そこに、羽二重の厚衾、枕を四つ、頭あわせに、身のうき事を問い、とわれ、睦言のように語り合う、小春と、雛妓、爺さん、小児たちに見せびらかした。が、出る時、小春が羽織を上に引っかけたばかりのなりで、台所まで手を曳いた。―・・・ 泉鏡花 「みさごの鮨」
・・・三人が落ち合った日、どんな話を、たがいに睦まじく語り合うでありましょう。 小川未明 「あほう鳥の鳴く日」
・・・いつか、青い空に上っていって、おたがいにこの世の中で経てきた運命について、語り合う日よりはほかになかったのであります。 びんの中から、天使は、家の前に流れている小さな川をながめました。水の上を、日の光がきらきら照らしていました。やがて日・・・ 小川未明 「飴チョコの天使」
さて、明治の御代もいや栄えて、あの時分はおもしろかったなどと、学校時代の事を語り合う事のできる紳士がたくさんできました。 落ち合うごとに、いろいろの話が出ます。何度となく繰り返されます。繰り返しても繰り返しても飽くを知・・・ 国木田独歩 「あの時分」
・・・およそ青年学生時代に恋を語り合うとき、その歓語の半分くらいは愛人教育にならないような青年はたのもしくなく、その恋は低いものといわなくてはならぬ。幾度もいうように、精神的向上の情熱と織りまじった恋愛こそ青年学生のものでなければならぬのだ。・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・それを柳行李につめさせてなどと家のものが語り合うのも、なんとなく若者の旅立ちの前らしかった。 次郎の田舎行きは、よく三郎の話にも上った。三郎は研究所から帰って来るたびに、その話を私にして、「次郎ちゃんのことは、研究所でもみんな知って・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・碁の話ではなく、いろいろ世相の事など、ゆっくり語り合う事になるらしい。 兄は、けさは早く起きて、庭の草むしりをはじめているようだ。野蛮人の弟は、きのうの新内で、かぜをひいたらしく、離れの奥の間で火鉢をかかえて坐って、兄の草むしりの手伝い・・・ 太宰治 「庭」
・・・の退屈さに苦しんで、地獄を語り合うときばかりは蓮の台に居並ぶ老夫婦の眼に輝きが添う姿、「羽衣」をかたに天女を妻とした伯龍が、女の天人性に悩まされて、三ヵ月の契約をこちらから辞そうとしたら「天に偽りなきものを」と居つづけられて、つよい神経衰弱・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・ 岩ばかりの峡谷の間から、かすかに、目に立たず流れ出し、忍耐づよく時とともにその流域をひろげ、初めは日常茶飯の話題しかなかったものが、いつしか文化・文学の諸問題から世界情勢についての観測までを互に語り合う健やかな知識と情感との綯い合わさ・・・ 宮本百合子 「「どう考えるか」に就て」
・・・けれどそれがために私とリュドミラとは普通誰れもが口にしないようなことについて語り合うのを妨げられたのでもなかった。語り合ったのは無論その必要があったからである。つまり、露骨な両性の関係をあまりにも頻繁に、あまりにもしつこく見せつけられて憤慨・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイによって描かれた婦人」
出典:青空文庫