・・・鶴を読め、鶴を読めと激しい語句をいっぱい刷り込んだ五寸平方ほどのビラを、糊のたっぷりはいったバケツと一緒に両手で抱え、わかい天才は街の隅々まで駈けずり廻った。 そんな訳ゆえ、彼はその翌日から町中のひとたちと知合いになってしまったのに何の・・・ 太宰治 「猿面冠者」
・・・なにわぶしの語句、「あした待たるる宝船。」と、プウシキンの詩句、「あたしは、あした殺される。」とは、心のときめきに於いては同じようにも思われるだろうが、熟慮半日、確然と、黒白の如く分離し在るを知れり。宿題「チェック・チャック・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・それには、この詩形が国語を構成する要素としての語句の律動の、最小公倍数とか、最大公約数とかいったようなものになるという、そういう本質的内在的な理由もあったであろうが、また一方では、はじめはただ各個人の主観的詠嘆の表現であったものが、後に宮廷・・・ 寺田寅彦 「俳句の型式とその進化」
・・・私見によるとおそらくこれは四拍子の音楽的拍節に語句を配しつつ語句と語句との間に適当な休止を塩梅する際に自然にできあがった口調から発生したものではないかと想像されるのであるが、これについては別の機会に詳説することとして、ここではともかくそうし・・・ 寺田寅彦 「俳句の精神」
・・・しこうしてその文字の中には胸裏に蟠る不平の反応として厭世的または嘲俗的の語句を見るもまた普通のことなり。これ貧に安んずる者に非ずして貧に悶ゆる者。曙覧はたして貧に悶ゆる者か否か。再びこれをその歌詠に徴せん。〔『日本』明治三十二年三月二十三日・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
出典:青空文庫