・・・の強い語感と誤解されるおそれがある。だから大阪弁の「そうだ」は文字には書けず、私など苦心惨憺した結果「そうだ」と書いて、「そうだす」と同じ意味だが、「す」を省略した言葉だというまわりくどい説明を含んだ書き方でごまかしているのである。が、これ・・・ 織田作之助 「大阪の可能性」
・・・と、こう言い切ってしまっては至極あっけないが、いや、そう誤解されたと思っていることにしよう。 とにかく出掛けた。ところが、約束の場所へそれこそ大急ぎでかけつけてみると、その人はまだ来ていなかった。別室とでもいうところでひっそり待っている・・・ 織田作之助 「天衣無縫」
・・・二十七年の夏も半ばを過ぎて盆の十七日踊りの晩、お絹と吉次とが何かこそこそ親しげに話して田圃の方へ隠れたを見たと、さも怪しそうにうわさせし者ありたれど恐らくそれは誤解ならん。なるほど二人は内密話しながら露繁き田道をたどりしやも知れねど吉次がこ・・・ 国木田独歩 「置土産」
・・・実に日蓮が闘争的、熱狂的で、あるときは傲慢にして、風波を喜ぶ荒々しき性格であるかのように見ゆる誤解は、この身延の隠棲九年間の静寂と、その間に諸国の信徒や、檀那や、故郷の人々等へ書かれた、世にもやさしく美しく、感動すべき幾多の消息によって、完・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・そういう性質はずっと後になっても、眉宇の間に現われていて、或る人々から誤解されたり、余り好かれなかったりしたというのは、そんな点の現われた所であったろうと思う。まだ二十位の青年の時代に或る時は東洋の救世主を以て任ずるような空想な日を送って、・・・ 島崎藤村 「北村透谷の短き一生」
・・・それは誤解です。山椒魚を焼いてたべる人があるという事は書物にも出ていたが、私は食べない。食べて下さいと言われても、私は箸をつけないでしょう。山椒魚の肉を酒のさかなにするなんて、私はそんな豪傑でない。私は、山椒魚を尊敬している。出来る事なら、・・・ 太宰治 「黄村先生言行録」
・・・これは私の戸籍名なのであるが、下手に仮名を用いて、うっかり偶然、実在の人の名に似ていたりして、そのひとに迷惑をかけるのも心苦しいから、そのような誤解の起らぬよう、私の戸籍名を提供するのである。 津島の勤め先は、どこだっていい。所謂お役所・・・ 太宰治 「家庭の幸福」
・・・これは諷刺の意を誤解せられては差支えるので、故意に原文に従わなかったのである。誤訳ではない。 著:ディモフオシップ 訳:森鴎外 「襟」
・・・ すべての案内者も時々これに類した誤解から起こる非難を受ける恐れのある事を覚悟しなければならない。たとえば、案内者が「この川を渡る橋がない」という意味で、渡れないと言ったのを船で渡っておいて「このとおり渡れるではないか」と言われるのはど・・・ 寺田寅彦 「案内者」
・・・しかし現代の日本人から忘れられ誤解されている連句は本家の日本ではだれも顧みる人がない。そうして遠いロシアの新映画の先頭に立つ豪傑の慧眼によって掘り出され利用されて行くのを指をくわえて茫然としていなければならないのである。しかも、ロシア人にほ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
出典:青空文庫