・・・当時八犬伝に読み耽っていた花房は、これをお父うさんの「三茶の礼」と名づけていた。 翁が特に愛していた、蝦蟇出という朱泥の急須がある。径二寸もあろうかと思われる、小さい急須の代赭色の膚に Pemphigus という水泡のような、大小種々の・・・ 森鴎外 「カズイスチカ」
・・・あなたの書かれた旅愁というの、四度読みましたが、あそこに出て来る数学のことは面白かったなア。」 考えれば、寝ても立ってもおられぬときだのに、大厦を支える一木が小説のことをいうのである。遽しい将官たちの往き来とソビエットに挟まれた夕闇の底・・・ 横光利一 「微笑」
・・・「冬になると、随分本を読みます。だが小説は読みません。若い時は読みました。そうですね。マリイ・グルッベなんぞは、今も折々出して見ますよ。ヤアコップセンは好きですからね。どうもこの頃の人の書くものは。」手で拒絶するような振をした。 己は自・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
・・・could,You too would love her.Procter : "The Sailor Boy."ミス、プロクトルの“The Sailor Boy”という詩を読みまして、一方ならず感じました。どうか・・・ 若松賤子 「忘れ形見」
・・・ 自分はこの書を読み始めた時に、巻頭においてまず強い激動を受けた。それは自分がアフリカのニグロについて何も知らなかったせいでもあるが、また同時に英米人の祖先たちがアフリカに対して何をなしたかを知らなかったせいでもある。自分はここにその個・・・ 和辻哲郎 「アフリカの文化」
出典:青空文庫