-
・・・ 門鑑は、外から這入って来る者に対して、歩哨のように、一々、それを誰何した。 昔、横井なに右衛門とかいう下の村のはしっこい爺さんが、始めてここの鉱山を採掘した。それ以来、彼等の祖先は、坑夫になった。――井村は、それをきいていた。子も・・・
黒島伝治
「土鼠と落盤」
-
・・・より月明らかに前途を照しくるれど、同伴者も無くてただ一人、町にて買いたる餅を食いながら行く心の中いと悲しく、銭あらば銭あらばと思いつつようよう進むに、足の疲れはいよいよ甚しく、時には犬に取り巻かれ人に誰何せられて、辛くも払暁郡山に達しけるが・・・
幸田露伴
「突貫紀行」