・・・その他に、部分的にちょい/\現れているのと、長塚節の、農民文学を論じる時にはだれにでも必ずひっぱりだされる唯一の「土」以外には、ほとんど見つからない。たまたま扱われているかと思うと、真山青果の「南小泉村」のように不潔で獣のような農民が軽薄な・・・ 黒島伝治 「農民文学の問題」
・・・今ここにこのデリケートな問題を論じる事は困難であり、また論じようと思わない。 要は、予報の問題とは独立に、地球の災害を予防する事にある。想うに、少なくもある地質学的時代においては、起り得べき地震の強さには自ずからな最大限が存在するだろう・・・ 寺田寅彦 「地震雑感」
・・・……人間の平等を論じる人たちがその平等を猿や蝙蝠以下におしひろめない理由がはっきりわからなかった。……普通選挙を主張している友人に、なぜ家畜にも同じ権利を認めないかと聞いて怒りを買った事もあった。 今鋏のさきから飛び出す昆虫の群れをなが・・・ 寺田寅彦 「芝刈り」
私は永い前から科学と芸術、あるいはむしろ科学者と芸術家との素質や仕事や方法に相互共通な点の多い事に深い興味を感じている。それで嗜好趣味という事は別として、科学者として芸術を論じるという事もそれほど不倫な事とは思われない。の・・・ 寺田寅彦 「津田青楓君の画と南画の芸術的価値」
・・・というのは、現代の科学者が統計学の理論を持出してしかめつらしく論じることを、すらすらと大和言葉で云っているのである。この道理を口を酸くして説いても、どうしても耳に入らぬ人が現代のいわゆる知識階級や立派な学者の中にでもいくらでも見出されるのは・・・ 寺田寅彦 「徒然草の鑑賞」
・・・その趣味の是非を論じるための標準は数理や科学からは求められない。 昔は、人に道を譲り、人と利福を分かつという事が美徳の一つに数えられた。今ではそれはどうだかわかりかねる。しかしそういう美徳の問題などはしばらくおいて、単に功利的ないし利己・・・ 寺田寅彦 「電車の混雑について」
・・・何を感じたかこの頃ではしきりに年賀状の効能と有難味を論じるようになった。今までとはまるで反対の説を述べて平気でいられるところが彼の彼らしいところを表現していて妙である。 どうも彼のいう事には順序というものがないから簡単に要領を捕捉するの・・・ 寺田寅彦 「年賀状」
・・・たとえばいわゆる共産主義を論じる学者たちが現在の社会に行なわれているこの万引きというものをいかに取り扱うかが聞きたいものである。 三越へ来て、数千円の帯地や数百円の指輪を見たり、あるいは万引きの事を考えたりしているとだれかが言った寝言の・・・ 寺田寅彦 「丸善と三越」
・・・そして事情の許す限りは物質を空隙のないコンチニウムと見做す事によってその運動や変形を数学的に論じる事が出来た。あらゆる現象は出来るだけ簡単な数式や平滑な曲線によって代表されようとした。その同じ傾向は生物に関する科学の方面へも滲透して行った。・・・ 寺田寅彦 「厄年と etc.」
・・・ヒューマニズムを日夜論じる当代日本の職業的知識代表者と、一般の勤労的知識人との間に、その形は極めて捕捉しがたい、だがはっきりと感じられる生活気分の疎隔がヒューマニズムの論をめぐっていつしか生じはじめたのであった。「知識階級は飽くまで知識・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
出典:青空文庫