・・・有妻の男子が他の女と通ずる事を罪悪とし、背倫の行為とし、唾棄すべき事として秋毫寛すなき従来の道徳を、無理であり、苛酷であり、自然に背くものと感じ、本来男女の関係は全く自由なものであるという原始的事実に論拠して、従来の道徳に何処までも服従すべ・・・ 石川啄木 「性急な思想」
・・・われわれには共鳴するところ最も多い論拠である。マルクスの如く歴史の発展を物力の必然として人間の道徳的努力の参与を拒むことは、たといその結果が理想社会に到達しようと、人間性を侮蔑するものである。改革の手段に暴力を用いる用いないの点よりも、この・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・ 以上が日蓮の論拠の根本要旨である。 日蓮はこの論旨を、いちいち諸経を引いて論証しつつ、清澄山の南面堂で、師僧、地頭、両親、法友ならびに大衆の面前で憶するところなく闡説し、「念仏無間。禅天魔。真言亡国。律国賊。既成の諸宗はことご・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・苦い真実を臆面なく諸君の前にさらけ出して、幸福な諸君にたとい一時間たりとも不快の念を与えたのは重々御詫を申し上げますが、また私の述べ来ったところもまた相当の論拠と応分の思索の結果から出た生真面目の意見であるという点にも御同情になって悪いとこ・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・ かかる行動に出ずる人の中で、相当の論拠があって公然文部省所定の課目に服せぬものはここに引き合に出す限りではない。それほどの見識のある人ならば結構である。四角に仕切った芝居小屋の枡みたような時間割のなかに立て籠って、土竜のごとく働いてい・・・ 夏目漱石 「作物の批評」
・・・必ず相当の論拠があり、研究もあって、露西亜の兵隊が何万満洲へ繰出すうちには、日本ではこれだけ繰出せるとか、あるいは大砲は何門あるとか、兵糧はどのくらいあるとか、軍資はどのくらいであるとかたいていの見込は立てたものでありましょう。見込が立たな・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・猪木氏の出現は、今日の若い読者層が過去の社会科学の文献に通じていず、したがって同氏が論拠とされている、ローザ・ルクセンブルグやトロツキーなどの引用文の、革命理論の誤謬を実際的に批判する能力は持っていないというギャップをねらっています。同氏が・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・このように不安な時代に生れる文学はリアリズムの方向にもどるにしろ当然かくの如きインテリゲンチアの不安を語り、摘発し、解決する文学でなければならない、というのがその論拠であったと考えられるのである。 そういう社会的不安を反映する文学の創作・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・の中でマルクスの心を打ったほど鋭く現実の資本主義商業の成り立ちを喝破していることと撞着するものでないというのが、バルザックの花車を押し出した一部のプロレタリア作家・理論家たちの論拠であったと見られるのである。 ところで、ここに一つの私達・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・後者は純文学の芸術性の擁護、文学精神としての芸術至上の論拠に立って、批判を行っていたのである。 事情は推移して、プロレタリア文学時代は過ぎたのであったが、この文学を押し流した時代の波は、純文学を主唱した知識人の社会的ありようにも激しく荒・・・ 宮本百合子 「文学精神と批判精神」
出典:青空文庫