・・・でも愛山氏などは、殆んど正反対に立った論敵ではあったが、一面北村君とは仲の宜い友達でもあった。それから喧嘩をして却って対手に知られた形で、北村君は国民の友や、国民新聞なにかへも寄稿するようになった。その中で、『他界に対する観念』は、北村君の・・・ 島崎藤村 「北村透谷の短き一生」
・・・かりそめにも目前の論敵に頭をさげるとは、容易ならぬ失態である。喧嘩に礼儀は、禁物である。どうも私には、大人の風格がありすぎて困るのである。ちっとも余裕なんて無いくせに、ともすると余裕を見せたがって困るのである。勝敗の結果よりも、余裕の有無の・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・そう言う私だとて病人づらをして、世評などは、と涼しげにいやいやをして見せながらも、内心如夜叉、敵を論破するためには私立探偵を十円くらいでたのんで来て、その論敵の氏と育ちと学問と素行と病気と失敗とを赤裸々に洗わせ、それを参考にしてそろそろとお・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・それらの人達が自分を正しい者としようとして論敵マルクスに加える誹謗と、マルクスを最大の敵とみるブルジョア社会とは、カールにあびせられるだけの雑言をあびせつづけた。それらもイエニーの明るく暖い心持を傷つけることは出来なかった。いつの間にかイエ・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・という人間の明智に対する信念によって――ジイドは、また、彼の論敵ら「秩序の愛と暴君の趣味とを混同する」徒輩が、この紀行文から手前勝手な利益を引っぱり出すであろうことをも、はっきりと予見している。しかも彼が敢てこの紀行文を公表するのは、上述の・・・ 宮本百合子 「ジイドとそのソヴェト旅行記」
出典:青空文庫