・・・彼はその恐怖を利用し、度たび僕を論難した。ヴェルレエン、ラムボオ、ヴオドレエル、――それ等の詩人は当時の僕には偶像以上の偶像だった。が、彼にはハッシッシュや鴉片の製造者にほかならなかった。 僕等の議論は今になって見ると、ほとんど議論には・・・ 芥川竜之介 「彼」
・・・日本人同士が独逸の雑誌で論難するというは如何にも世界的で、これを以ても鴎外が論難好きで、シカモその志が決して区々日本の学界や文壇の小蝸殻に跼蹐しなかったのが証される。 鴎外の博覧強記は誰も知らぬものはないが、学術書だろうが、通俗書だ・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
・・・毎日の新聞、毎月の雑誌に論難攻撃は絶えた事は無いが、尽く皆文人対文人の問題――主張対主張の問題では無い――であって、未だ嘗て文人対社会のコントラバーシーを、一回たりとも見た事が無い。恐らく之は欧洲大陸に類例なき日本の文壇の特有の現象であろう・・・ 内田魯庵 「二十五年間の文人の社会的地位の進歩」
・・・二葉亭はこの『小説神髄』に不審紙を貼りつけて坪内君に面会し、盛んに論難してベリンスキーを揮廻したものだが、私は日本の小説こそ京伝の洒落本や黄表紙、八文字屋ものの二ツ三ツぐらい読んでいたけれど、西洋のものは当時の繙訳書以外には今いったリットン・・・ 内田魯庵 「明治の文学の開拓者」
・・・この老先生がかねて孟子を攻撃して四書の中でもこれだけは決してわが家に入れないと高言していることを僕は知っていたゆえ、意地わるくここへ論難の口火をつけたのである。『フーンお前は孟子が好きか。』『ハイ僕は非常に好きでございます。』『だれに習・・・ 国木田独歩 「初恋」
・・・それには表に ビジテリアン大祭次第挙祭挨拶論難反駁祭歌合唱祈祷閉式挨拶会食会員紹介余興 以上と刷ってあり私たちがそれを受け取った時丁度九時五分前でした。 式場の中はぎっしりでした。そ・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・であること「自分の陣営内の同志の過失を訂そうとして、政治上の敵に対すると同じ悪罵と論難とを加えること」「自分の仲間を一人一人敵の陣営につき出そうとするような言動は、われわれは例えばどんな動機からでも避けなくてはならない」 他の一つは、ど・・・ 宮本百合子 「前進のために」
・・・木村はそれを厭がりもしないが、無論難有くも思っていない。 丁度近所の人の態度と同じで、木村という男は社交上にも余り敵を持ってはいない。やはり少し馬鹿にする気味で、好意を表していてくれる人と、冷澹に構わずに置いてくれる人とがあるばかりであ・・・ 森鴎外 「あそび」
出典:青空文庫