・・・徳川氏の権力維持の努力とそれを繞る野心ある諸家の闘いは、やはり女性をさまざまの形でその仲介物とした。稗史の中でも徳川の大奥というものは伏魔殿とされた。沢山の隠れた罪悪と御殿女中の不自然な生活から来る破廉恥な行為とは、画家英一蝶に一枚の諷刺画・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・また前に挙げた紅葉等の諸家と俳諧での子規との如きは、才の長短こそあれ、その作の中には予の敬服する所のものがある。次にここに補って置きたいのは、翻訳のみに従事していた思軒と、後れて製作を出した魯庵とだ。漢詩和歌の擬古の裡に新機軸を出したものは・・・ 森鴎外 「鴎外漁史とは誰ぞ」
・・・この男は近江国浅井郡の産で、少い時に江戸に出て、諸家に仲間奉公をしているうちに、丁度亀蔵と一しょに酒井家の表小使をして、三右衛門には世話になったこともあるので、若しお役に立つようなら、幸今は酒井家から暇を取っているから、敵の見識人として附い・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・竜池は金兵衛以下数人の手代を諸家へ用聞に遣り、三日式日には自身も邸々を挨拶に廻った。加賀家は肥前守斉広卿の代が斉泰卿の代に改まる直前である。上杉家は弾正大弼斉定、浅野家は安芸守斉賢の代である。 父伊兵衛は恐らくは帳簿と書出とにしか文字を・・・ 森鴎外 「細木香以」
・・・その中で諸家のコンメンタアルに異説のある難句が、枚挙するに遑あらぬ程である。然るにここに書いた四箇条の誤訳は、皆極平易な句に過ぎぬ。そうでないのは所謂「とがき」などである。今後は難渋な句の誤訳をも、もしどこかにあったら、発見して貰いたい。私・・・ 森鴎外 「不苦心談」
・・・ さて右のごとき問題を抱いて諸家の作品を遠くからながめる。川端竜子氏の『慈悲光礼讃』は、この問題に一つの解案を与えるものであるが、我々はこれを日本画の新しい生面として喜ぶことができるだろうか。薄明かりの坂路から怪物のように現われて来る逞・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
出典:青空文庫