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・・・欣弥、莞爾して撫子の顔を見て、その心づかいを喜び謝す。撫子嬉しそうに胸を抱く。二人続いて入る、この一室襖、障子にて見物の席より見えず。七左 (襖の中ここはまた掛花活に山茶花とある……紅いが特に奥方じゃな、はッはッはッ。・・・
泉鏡花
「錦染滝白糸」
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・・・法王に謝すと思えばこそ、腹も立つ。わしのこの尊い頭に少し許りでもいまわしい思いをいたさせた事を己の頭に謝するのじゃと思えばよいのじゃ。 最後の勝を得るためなのじゃ。 謝したものが愚者じゃ負者だとは定められぬものじゃと云う言葉をわしが・・・
宮本百合子
「胚胎(二幕四場)」