・・・という音は実は人類の祖先だと信じられている猿の言葉から進化したものである――云々と、私は講演したのだが、聴衆は敬服して謹聴していたものの如くである。恐らく講師の私を大いに学のある男だと思ったらしかったが、しかし、私は講演しながら、アラビヤに・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・、あいつこのごろ、まじめになったんだってね、金でもたまったんじゃないか、勉強いたしているそうだ、酒はつまらぬと言ったってね、口髭をはやしたという話を聞いたが、嘘かい、とにかく苦心談とは、恐れいったよ、謹聴々々、などと腹の虫が一時に騒ぎ出して・・・ 太宰治 「鉄面皮」
・・・そうして何でも実によく知っているルーベンスの傍に、無邪気で気軽く明るいプランクがいて、よくわれわれでも知っているような実験的の事実を知らないで質問する、若い連中が得意になってそれを説明するのを感心して謹聴していた。純真な性格にもよるであろう・・・ 寺田寅彦 「ベルリン大学(1909-1910)」
・・・敢て謹聴するに足る程の能弁でも無いのに、よくのさばり出て遣った。つまらないから僕等聞いてもいないが、先生得意になってやる。 何でも大将にならなけりゃ承知しない男であった。二人で道を歩いていても、きっと自分の思う通りに僕をひっぱり廻したも・・・ 夏目漱石 「正岡子規」
出典:青空文庫